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掲載日:2006年7月18日

ITイノベーション・サミット

第1部:これからITで何が起きようとしているのか

妹尾 堅一郎
東京大学 先端科学技術研究センター 特任教授(知財マネジメントスクール校長役)
田坂 広志
多摩大学大学院 教授/シンクタンク・ソフィアバンク 代表/社会起業家フォーラム 代表
中村 伊知哉
スタンフォード日本センター/国際IT財団 研究所長
成井 弦
(株)リーディング・エッジ社 代表取締役会長/Linux Professional Institute Japan 理事長
森 祐治
(株)シンク 代表取締役
尾中 昭文氏(モデレータ)
(株)青山プランニングアーツ 代表取締役社長

Web2.0がもたらした「主客融合」その流れが向かう先とは

森 祐治氏の写真
尾中
今後ITが社会全体をどう変えていくのか、どんな幸せをもたらすのか、皆さんはどうお考えでしょうか?
今起きている変革を象徴する言葉が「Web2.0」でしょう。私はこのWeb2.0は、すべての人々が平等に情報を受発信できるというインターネットの根幹を、改めてわれわれに思い出させる言葉だと捉えています。今まさにWeb2.0によって、エンドユーザーへの“情報の権力奪還”が進んでいます。
妹尾
Web2.0の代表格であるGoogleやAmazonの発展に伴い、「主客融合」が加速しています。従来は情報をつくる人と利用する人が明確に分離していたのが、今は1人のユーザーが両方の役割を担うようになっています。その結果、情報発信におけるプロとアマチュアの境界が薄れて、プロの力量がより厳しく問われるようになりました。
田坂
たしかに、「主客融合」によって、メディアや広告のあり方が劇的に変わりましたよね。しかし今、そのGoogleは次なる岐路に立たされています。彼らの提供する情報は今後、より企業に合わせていくのか、それともエンドユーザー主体でいくのか。その方向性が彼らのこれからのメディア戦略の起点になるでしょう。
Googleは本来、かつての米国のAT&Tのようなプライベートセクターなのですが、現在、実質的にはパブリックセクター化しています。やはり、これだけプラットフォームを握っていると強いということでしょうね。もしかしたら将来、何らかの規制がかかることも考えられます。
妹尾
いずれにせよGoogleが今後どの流れに向かうのかは、我々が今後何をどう望むかとイコールになってくるでしょうね。

“情報の広場”の「集合知」から新しい価値を創造する

中村 伊知哉氏の写真
尾中
インターネットの世界では、ほかにも「SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)」が注目を集めたり、米国の動画ポータルサイト「You Tube」のような新しいサービスが人気を博したりと、新しい流れが広まっています。
中村
かつてネットワークは「情報ハイウェイ」という言葉に象徴されるように“情報の道”でしたが、現在は“情報の広場”へと変わりました。インターネット上に集まった人達の間でさまざまな知恵が共有・交換され、リ・プロデュースされて、新しい価値が日々生み出されています。
田坂
そのように自然と秩序が形成され、価値が創出されていくプロセスは「創発」(エマージェンス)と呼ばれています。これからのビジネスでは、創発による「集合知」をどう生かしていくかが重要になるでしょうね。
尾中
集合知の成功例の代表例としてはLinuxがありますね。
成井
Linuxがなぜ成功したかというと、セレクションのプロセスが優れていたからです。世界中から日々送られてくるソースコードをリーナス・トーバル氏らが適切に選別してまとめ上げたからこそ、あれだけの支持を得るOSとなったのです。
中村
そういったWeb2.0的なコンテンツ作成の流れは、今盛んに議論されている“放送と通信の融合”にもあてはまります。今あるブロードバンドや携帯電話といった技術・環境と、テレビ番組といったコンテンツを集めてどう組み合わせていくのか。日本はネットワーク環境が成熟しており、かつ、テレビ番組のコンテンツが豊富で制作ノウハウも蓄積されているので、大きなビジネスチャンスになるでしょう。
成井
このままコンテンツとITの融合が進んでいけば、かつて私が在籍した日本SGI社のCG技術が映画や放送の世界にもたらしたようなパラダイムシフトが次々と起きるのではないでしょうか。
妹尾
「集合知の興隆」など現在ネットワークの世界で起こっている変革は、実はリアルの世界でも起こっています。秋葉原に足を運べば実感できますよ。

集合知をビジネスに生かすためには“創発戦略”を学ぶことが大切

成井 弦氏の写真
尾中
SNSのような集合知が醸成される場を、企業がビジネスに活用することは可能なのでしょうか。
SNSなどは確かに大きな可能性を秘めているのですが、ビジネスモデルの方がまだまだ追随できていないのが現状です。今後は企業側がSNSなどの集合知をどう位置づけて、何と融合させていくか、しっかりと戦略を練ることが大切になります。幸いネットワークの上なら、共通のプロトコルを用いれば容易に融合できます。
田坂
ただし企業が注意すべきは、従来の自分たちのビジネス手法に固執して、SNSなどをコントロールしすぎないことです。従来の「操作主義的」な手法から脱し、「知の創発」というプロセスをいかに加速させるかに力点を置くことが大切ですね。企業はそのような「創発戦略」をしっかり学ばないと失敗するでしょう。
成井
加えて、知の創発で大切なのは、Linuxのようにコミュニティドリブンで何かを生み出そうという場合には、中立な立場で全体を統合できるキープレーヤーが必要になるということです。
中村
そうした意味では日本におけるコミュニティドリブンの流れは、米国でWeb2.0という言葉が登場する以前に生まれていたと言えますね。典型的なのが女子高生たちによって生み出された携帯メールのギャル文字です。このように日本には新しいものをユーザー自身が皆で発展させていく風土があります。これは日本の強みであり、企業は今後のビジネスに生かしていきたいですね。

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