- 池上
- 今ひとつ元気がない日本に、久々に夢と希望を与えてくれたのが「はやぶさ」帰還のニュースでした。
- 川口
- ありがとうございます。このプロジェクトが皆さんのお役に立てたのなら何よりです。
- 池上
- これだけ多くの人々が感動した背景には、「満身創痍になりながら地球に戻ってきた」というドラマチックなストーリーもあるように思いますが、いかがでしょう。
- 川口
- そうですね。図らずも困難の連続となってしまい、私たちは薄氷を踏む思いでした。
- 池上
- 2003年の打ち上げから2010年の帰還までの長い間、通信が途絶えたりイオンエンジンが停止したりと、数々の危機に直面したそうですね。なかでも一番苦しかったのはどのトラブルでしたか。
- 川口
- もっとも大変だったのは、小惑星「イトカワ」への2回目の着陸が終わった後に、姿勢制御用ロケットエンジンの燃料漏れが起きたことです。その結果、探査機の姿勢制御ができなくなってしまいました。主と従の2系統を用意してトラブルに備えていたのですが、両系統とも使えなくなり、どん底までたたき落とされましたね。帰還を3年延長せざるを得ませんでした。
- 池上
- しかし、その最悪の状態を乗り切ったわけですね。どのような策を練ったのでしょう。
- 川口
- はやぶさには、ロケットエンジンだけでなく惑星間を航行するためのイオンエンジンも搭載されています。ロケットエンジンの燃料漏れが起きたとき、幸いイオンエンジンの燃料であるキセノンガスが残っていました。そこで、キセノンガスを噴射することで姿勢制御するようにしたのです。
- 池上
- キセノンガスを燃料として使うのではなく、直接噴出するようにしたわけですか。
- 川口
- はい。ただし、それができたのも、たまたまイオンエンジンが4機搭載されており、ガス噴射で姿勢制御ができる配置だったからです。これが1つの大きなイオンエンジンという構成でしたら、姿勢制御はできません。設計した当初は、当然ながらこのような使い方は一切想定していませんでしたから、トラブルを乗り切れたのは偶然の側面も大きいのです。
- 池上
- それは知りませんでした。実は、私はこのお話をお聞きして、映画「アポロ13」を思い出しました。月面探査船が故障して乗組員が絶望的な状況に陥るなか、残されたものを使って困難を乗り切る…という実話に基づいた映画です。はやぶさも、ラッキーな偶然があったとはいえ、すばらしい機転で助かったわけですね。
- 川口
- アメリカの関係者にも同じことをいわれました。ある装置を、本来とは異なる使い方をして危機に対処したという意味では似ているかもしれません。
- 池上
- はやぶさには、イオンエンジンのほかにも革新的な技術が採用されているそうですね。どのようなものがありますか。
- 川口
- “自律制御”です。イトカワに安全に接近・着陸できるよう、さまざまなセンサーで形や距離を正確に捉えたうえで、はやぶさ自身が自律的に次の行動を考えるのです。
- その制御を司るソフトウェアについては、通信によって書き換えられるようにしました。先ほど申し上げた燃料漏れのようなことが起きると、それまでと同じ運用のままでは対応できなくなりますから、プログラムを書き換える必要があるのです。非常に細い回線でつながっているため、アップロードには1週間ほどかかりますが。
- 池上
- なるほど。はやぶさの帰還の裏側には、高度な技術とそれを操る技術者のノウハウ、そして、そこから生まれた機転や工夫があったのですね。


