みらい探訪

2016年10月掲載

第5回 専門分野の「共通感覚」や
「暗黙の了解」を学んだシステムで、
クリエイティブ活動を強化。

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イメージイラスト(Illustration:Noriyuki Goto)

日本ユニシス総合技術研究所の所長を務める羽田昭裕が、同研究所で進めている研究を切り口にして数年後に実現する世の中を紹介する「みらい探訪」。
今回のテーマは、「コモンセンス」。
各専門分野のコモンセンスを徹底的に学んだシステムを駆使して専門家のクリエイティブ活動を強化する未来について紹介します。

“あたりまえ” を認識し、直感を補いコミュニケーションを刺激することで
人間の創造力を強化

人間が何かを創造する時には、幾つかの方法があります。その1つが、それぞれの分野に存在する「共通感覚」や「暗黙の了解」、あるいは過去の優れた「成果物」を下地に、場合によっては模倣することから発想をスタートさせるというやり方です。これは音楽やスポーツをはじめ、学問やビジネスなどの分野にもあてはまります。

こうした人間の創造活動を強化するために、コンピュータ技術を活用し、新しいものを創るうえでの本質に迫る力を高めようという動きが活発化しています。私たち日本ユニシス総合技術研究所でも、「日常の“あたりまえ”を認識できる能力(コモンセンス)」をもつ人工知能を開発し、会議の発想支援システムに応用する研究に取り組んでいます。

この研究では、会議参加者の発話の内容や対話の順番、間合いなどから、人工知能が人のコミュニケーションを捉えて対話のなかに潜んでいる“あたりまえ”を壁面に設置したディスプレイに表示して補うなど、会議室の空間に散りばめていきます。これによって会議の進行を促し、発想を刺激して効率良く豊かなアイデアを創生したり、合意形成の誘因を与える仕組みの解明を進めています。

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設計データを導き出す技術によってデザイナーの想いや発想プロセスが“見える化”

もう1つ、私たちが創造強化として研究を進めている分野が、自動車ボディのような意匠デザインです。意匠デザイン工程では、デザイナーが描いたアイデア・スケッチ図をもとに、手作業でクレイ(粘土)モデルを製作し、評価と修正を繰り返しながら、デザイナーの想い描く形を実体化します。最終のクレイモデルはCADデータ(数式表現された曲面モデル)化され、実際の自動車製造を担う設計・製造部門に渡されます。CADデータの作成で、現物モデルから曲面モデルを導き出す技術は「リバースエンジニアリング」と呼ばれ、クレイモデルに込められたデザイナーの意図を正確に反映することが求められます。

日本ユニシス総合技術研究所では、意匠データに対する「リバースエンジニアリング」技術に関して、幾つかの重要な研究成果を上げています。この技術を開発したことで、クレイモデルの測定データから造形プロセスを読み解き、CADデータにデザイナーの意図を反映できるようになりつつあります。

これが実現できた要因は、意匠デザイナーが曲線や曲面をデザインする時の共通した考え方や手順を正しく理解し、それを忠実にシステム化できたことにあります。つまり、自動車の意匠デザインにおける“コモンセンス(=共通感覚)”が数式で表現できるようになったのです。また、ビッグデータ解析や機械学習技術の進歩、ノイズ除去、特徴線抽出といった技術の向上も、リバースエンジニアリングの進化に大きく貢献しました。

システムの完成度が高まれば、上級デザイナーのデザイン手法が模倣・共有化できることから、経験の差によって生じえるCADデータの差もなくなるなど、さまざまなメリットが考えられます。

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次々に広がる応用分野ものづくり、そしてアートも

コモンセンスを活用した創造強化は、今後さまざまな分野で進むことが予想されます。例えば現在、内閣府の主導で「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」が進められており、そのポイントになっている1つにデライト設計というものがあります。デライトとは「喜び品質・満足」などを意味します。つまり、デライト設計は品質や機能にデライトを加え、ワクワクする製品、感性に訴える製品づくりでグローバルなものづくりをリードしようというものです。そこで、ものづくりの設計工程に、カーデザイナーが美しい曲面フォルムをデザインする時のコモンセンスが反映できれば、これまでにないワクワク感をもつ製品や新たな感性に訴える製品が生まれる可能性が広がります。

さらにアートの世界では、複数のアーティストが自らのクリエイティブなコモンセンスをもち寄ることで、だれも想像したことがない作品が誕生することも考えられます。このように、異なるコモンセンスを融合することで、画期的な創造が生まれることもあるのです。

共通感覚や暗黙の了解などの模倣を出発点に、まったく新しい発想や創造が生まれてくる――そんな期待と可能性が、さまざまな分野で高まっています。

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