VOL.34 2012.2.28更新
米国オバマ政権がグリーン・ニューディール政策の柱の1つに掲げた「スマートグリッド(Smart Grid)」。これは、電力供給の効率を高め、低炭素社会を実現しようという構想です。欧州でも、スマートグリッドに向けた取り組みへの対応は活発化しており、電力網の整備などが進んでいます。
一方、日本では、低炭素社会への取り組みとして進んでいるEV(Electric Vehicle:電気自動車)の普及が、スマートグリッドへの布石の1つと見られています。EVとスマートグリッドにはどのような関係があるのか、これらについてITはどのような役割を果たすのか。EV用充電インフラシステム『smart oasisTM』を提供する日本ユニシスのコンサルタントの視点から語ります。
スマートグリッドを直訳すると“賢い電力網”。ITを用いて、エネルギー効率の高い低炭素電力供給網を構築することです。各家庭にスマートメーター(注1)を取り付け、電気の利用状況データを通信によって電力会社などと共有することで、需要に応じた無駄のない給電、風力や太陽光など供給量の安定しない自然エネルギーの適切な利用、家庭の「購買電力」余剰分の買い戻し、「自家発電」余剰分の買い取りなどが可能になります。
オバマ政権は、環境・景気対策として打ち出したグリーン・ニューディール政策の目玉としてスマートグリッドを掲げており、2009年2月に成立した景気対策法(米国回復再投資法)では、スマートグリッドに関する技術開発の助成金として33億7,500万ドルの予算を計上しました。これを受けて、GEなどのハードメーカー、シスコシステムズなどのネットワーク機器メーカー、Googleなどのソフトウェア会社をはじめ、さまざまな企業がこの国家プロジェクトに関わり、新しいビジネスの創出に向けて動いています。また欧州では、電力供給事業が民間企業に開放され自由競争であるため、スマートグリッドが生み出す次世代型ビジネスに乗り遅れないよう、多くの企業がスマートメーターなどの導入を着々と進めています。
スマートグリッドは、低炭素社会を実現するだけでなく、新たな環境ビジネスを生み出すのです。
(注1)スマートメーター:
通信機能をもつ高性能な電気メーター。各家庭での現在の消費電力量や、太陽光発電などによる自家発電量をリアルタイムに計測し、無線通信によって電力会社にデータを提供する。
本来、発電の6割を輸入化石燃料に頼っている日本にこそ、自然エネルギーを効率よく利用するスマートグリッドの構築が必要です。しかし、政府はスマートグリッドに関する明確な方針を打ち出していません(2009年8月現在)。こうした状況では、自然条件などに恵まれた離島や山間部で風力発電や太陽光発電をしても、その電力を都市部にロスなく送ることができる電力網の整備は期待できません。日本では、まず地産地消型のマイクログリッド(注2)が各地域で立ちあがり、それらが全国的なスマートグリッドへと発展し整備されていく、という流れになるでしょう。そのカギとなるのがEVだと私は考えます。
EVの開発・製造は、国内で最も進んでいる低炭素電力供給関連の事業です。日産自動車の「LEAF(リーフ)」、一般発売も始まった三菱自動車の「i-MiEV(アイ・ミーブ)」では、フル充電で160キロメートルの走行が可能になっています。三菱重工は大型EVバスの開発に乗り出していますし、三井物産は東京の都心部でEVを活用したカーシェアリングの普及に向けて動いています。
しかし、これらEVが広く普及するためには、給電スタンドが各地域に設置されることが不可欠です。そこで、まずは給電スタンドに電力を供給する目的でマイクログリッドが整備されていくでしょう。いわばEVが電力網の役割を果たすというわけです。また、家や集合住宅に太陽光パネルを取り付けてEVに充電し、そのEVを住民がシェアして利用することでEVがスマートハウス(注3)の中核となる。こうした一連の流れが、安定した系統網をもつ日本の電力のさらなるスマート化のベースになるものと考えます。
(注2)マイクログリッド:
一定地域内において、太陽光発電、風力発電、ガスタービン、蓄電装置など複数の分散型電源をITによってネットワーク化した、小規模送電網。
(注3)スマートハウス:
スマートグリッドを活用して電力消費を制御した住宅。エアコンやテレビなどが自動で制御できる。
EVの給電スタンドは、まず商業施設やレジャー施設に設置されることになると考えられますが、これの利用を推進するうえで欠かせないのがITです。給電スタンドの位置情報、空き状況、利用可能時間などを携帯電話やカーナビにリアルタイムに発信する必要があるほか、給電時にはICカードで認証・決済すると便利だからです。
日本ユニシスは、その先駆的な試みとして、充電インフラシステム『smart oasisTM』を開発し、産学協同で実証実験を進めています。ゆくゆくはEV側の位置情報も把握し、その地域の給電スタンドの総残電量と走行中のEVの車両数を照合して、電気量が足りないEVを条件が最適な給油スタンドへ誘導するなど、さまざまなビジネスとしての可能性を検討しています。
懸念される点は、セキュリティの実装と規格の標準化です。個人情報と決済情報をネットワークで扱うわけですから、十分なセキュリティ対策が求められます。また、家電ごと、電機メーカーごとにリモコンや制御盤のインタフェースでもある制御情報の規格が異なり、一元化が容易でないことも問題です。EVや携帯電話は統一規格への動きが進んでいるものの、電力網を普及させるためには、パソコンやデジタル家電を含めた一層の標準化が必要でしょう。現在、この問題の解決に向けて業界やメーカーの垣根を越えた情報共有がスタートしており、日本ユニシスもそのプロジェクトに参加しています。
日本におけるスマートグリッドへの取り組みは、各社まだビジネスの可能性を探っている段階です。いずれにせよ、EVやバッテリーという単体で勝負していては、中国など他国との価格競争に巻き込まれてしまうことは、太陽電池の例でも明らかです。運用を含むインフラの仕組み自体を販売するなど、新しいビジネスを生み出すことが、日本が競争力を維持するためには重要になってくるでしょう。
長谷川 幸成 HASEGAWA Yukinari
日本ユニシス株式会社
ビジネスディベロップメントセンター コンサルティング室 統括パートナー
金融機関向け世界初の完全無停止システムとして日本ユニシスが開発した「TRITON」の導入に従事し、勘定系インフラの導入・対外系システムの構築・金融業務システムの開発に携わる。金融機関のオープン化に伴い業務OAシステム構築・大規模ネットワーク構築・業務BPR推進の遂行後、eビジネス推進プロジェクトに参画し、都銀マーケットプレース・都銀新決済システム・外資系大手証券会社の資産分析の上流設計、ICカード・物流・金融業界のマーケティングに従事。弊社アウトソーシング事業部のBS7799認証取得プロジェクトへ参加し、セキュリティビジネス、日本版SOX法対応の企画・コンサルタントを経て、現職。