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全てのビジネスにAI

AIは仕事、社会、生活のあらゆる場面で利用が広がり始め、その活用範囲は、定型的な事務作業の代替のみならず知的活動領域まで多岐に渡っている。
多くの企業はAIを競争力強化のために活用し、その結果、AIをうまく使える企業とそうでない企業の間でAI格差が生じ始めている。AIはSaaSやITベンダー/SIerの重要な選定基準になっている。

全てのビジネスにAI

背景と現在の状況

AIは古くから研究されてきた技術だが、これまで何度か期待と失望が繰り返されてきた。近年、以下のような環境変化により、改めて脚光を浴びる技術となった。特に様々な場所から発生する大量データを有効活用し、新たな価値を生むために必要な技術として期待が高まっている。

<AI技術の進歩に大きな影響を与えた環境変化>

  • 多量のコンピュータリソースを比較的安価に利用できるようになった

  • 大量のデータを容易に入手できるようになった

  • 新しい技法の登場

2014年前後から“AI”という言葉は、IT専門誌だけでなく一般の新聞、雑誌、テレビなどでも数多く取り上げられている。言葉としては広まってきたが、AIで何ができるのか、何が変わるのかが漠然としており、漠然とした期待と疑念が入り混じった状況にある。例えば、自動運転や自動翻訳、個人に最適化された医療、社会コストの低減などプラス面に対する期待が高まる一方、AIに仕事を奪われる事への不安や、著名人の“AIは人類最悪の発明”といった発言などから来るAIの暴走を危ぶむマイナス面への懸念も広まっている。

3〜5年後の姿

AIは仕事、社会、生活のあらゆる場面で利用が広がり、多くの企業がAIによる競争力強化を行っている。企業間で“AI格差”が生じ始め、AIがITベンダーの選定基準になっている。
AIが人間の仕事を奪うということが実感として広まり始めるが、仕事を奪われる立場の人々もAIの恩恵を得るケースもあり、単純な賛成/反対の議論とはなっていない。より具体的な課題が表面化している。

AIの広がり

AIは仕事、社会、生活のあらゆる場面で利用が広がり始め、その活用範囲は、定型的な事務作業の代替のみならず知的活動領域まで多岐に渡っている。特に製品やサービスの利用体験向上とデータ利活用による効率化/企業価値創出は、AI活用による大きな効果が期待できる分野として注力されている。

大量の専門知識が必要な分野では、大量の文献情報を取り込んだAIを用いた質問応答システムが広く使われ、専門家を支援している。特に医療や法律、会計などの分野では早い段階から適用が進んでいる。これらの分野では最新の論文や事例・判例などを人間が全て把握するのは不可能な状況だが、AIが必要な情報にアクセスすることのハードルを下げ、最新情報に基づいた、より適切な判断が下せるようになっている。また、文書の仕分けや予備調査などはAIが実施し、最終的な判断は人間が行うといった仕事の分担が進んでいる。全ての領域に通じたAIシステムはまだ存在していないため、いかに適切なAIを選択し、状況に応じて使いこなせるかが重要なスキルとして認識され始めている。そのため一部の試験では、AIとの共同作業の質を評価するような基準が試行され始めている。

社内情報のデジタル化進展に伴い、社内活動の多くにAIが関わるようになっている。例えばAIを用いた自動スケジュール調整や要員/在庫など社内資源の最適配置支援は当たり前のものになりつつある。また、社内SNSやメール、各種ログデータを情報源としたコンプライアンス問題の早期検知等でもAIが利用されている。これまで継承が難しいとされていた属人的ノウハウについても、画像認識や音声認識技術などにより実際の人の動きや言葉遣いを捉え、それらをノウハウとしてAIシステム内へ蓄積し活用する試みが行われている。

データ利活用分野ではAIを用いた予測や意思決定支援の高度化が行われている。企業の業務や経営への適用はもちろんのこと、政治への適用も一部の国で試み始められている。有効なデータの組み合わせを見出す段階でもAIが活用され、人が気付かなかったようなデータを組み合わせ、より良い結果を生む例も出てきている。

自動翻訳とe-learningに対するAIの適用は、社会的に大きな影響を及ぼすようになり始めている。AIを適用した自動翻訳は、特に専門分野において言葉の壁を越えた人材の流動性を高めるレベルにまでなっている。また、AIにより個々人に最適化されたe-learningは、前述の自動翻訳とあいまって、高度な教育を安価に受ける機会を世界中の人に与えている。このような環境変化により、人材の流動性が増し、特に海外においては特定の組織に属さない働き方が増え始めている。

AIとのインタフェースとして音声入力/応答が使われ始めている。音声入力/応答自身もAI発展の恩恵を受け、実用度合いが向上している。特に食品加工や医療など衛生面での配慮が必要な分野では、手による機械操作を無くす手段として、車や機械の操作といった注意を逸らすことができない分野では、操作への集中を図る手段として、その利用が大きく進んでいる。

AIによる差別化

多くの企業で自社の競争力強化のためにAIを活用している。AIはかつて専用システムとして存在するものが多かったが、様々なシステムに組み込まれるようになり、システムの価値・魅力にAIが大きく影響するようになっている。AIはSaaSやITベンダー/SIerの重要な選定基準になっている。

SoE*1 領域のシステムでは、AIは顧客との関係性強化を図るためのキー技術として積極的に用いられている。各企業は自社製品/サービスの利用体験向上を図るためにAIを使い、個々の顧客に特化した情報を適時に届けること等で差別化を図っている。また、実際の言葉や行動の裏にある顧客の真意を理解し適切な対応を行うために、AIを利用した感情認識技術などの利用が試みられている。

SoR*2 領域のシステムにおいても、システムの使いやすさ、必要な情報の探しやすさなどを改善するためにAIが利用されている。例えば、システムに入力するデータの推測、必要な手続きの代行や支援などが広く使われており、仕事の効率化が図られている。また、AIを利用することでより高度なデータ利活用がすばやく行える環境が整い、より適切な意思決定支援が実現されている。例えば、自社内データとオープンデータを組み合わせた需要予測や自動発注の領域では、どのオープンデータを用いるとより効果が高いかを判断する段階と、それらのデータを用いて実際に予測を行う段階の両方でAIが利用され始めている。

一方でAIを適切に使えていない企業も存在しており、両者の間で“AI格差”が拡大し始めている。

*1 Systems of Engagement(SoE)。現在進行中の顧客の用事(例:買物、調査)や従業員の仕事(例:店舗での接客、倉庫でのピッキング、出張保守)の支援に重点を置くシステム。売上や利益、顧客ロイヤルティの向上などが期待される顧客接点系システムを指すことが多い。
*2 Systems of Record(SoR)。仕事の結果を記録する(Recordとして保存する)システム。基幹システム、業務システムなどの従来型情報システムを指すことが多い。

現実的な課題の表面化

AIの活用が進むにつれ、より具体的な課題が表面化している。”AIにより人の仕事が奪われる”ことや“AIが人類を滅ぼす”ことがセンセーショナルに取り上げられた時期もあったが、実際の活用が進んだ結果、活用可能な範囲と限界が認識されるようになっている。その結果より現実的な課題に目が向くようになってきた。その中でも特に重要な課題として以下の3つが注目され、解決策が探られている。

  • AIシステムの運用
    AIシステムは外部環境の変化を学習し、動きを調整していく特性を持っているという意味で、伝統的なITシステムと比べ外部の影響を受けやすいシステムということができる。AIが実際に活用されていくに伴い、AIシステムの動きを“意図したとおり”に保つことの難しさが明らかになり、課題となっている。例えば、AIが意図したものと異なる動きをするようになったとき、それが外部環境変化による必然なのか、一時的なデータの偏りによるものなのか、的確に判断するための新しい技術が必要となってくる。また、使用する技術によってはAIが下した判断の根拠が分かり難い場合もあり、問題発生時の切り分けについても特別な技術が必要とされる。

  • AIシステム間の情報伝達
    AIは有効そうな個別課題を優先して適用が進められたため、異なる企業やシステム間の相互運用の考慮は乏しかった。しかしAIの活用が高度化するにともない、異なるAIシステム間連携の必要性が認識され始めている。例えば、交差点に設置されたAIシステムと自動車に搭載されたAIシステムの間で、お互いに認識している状況を共有する場合、どのように情報を伝達すべきかが大きな課題となっている。

  • 人との共存と競争
    AIへの過度な期待と疑念は薄れつつあるが、その一方で、AIがある種の人間の仕事を奪うということが実感として広まり始める。仕事を奪われる立場の人々も、AI活用による社会的コストの低減などの面で恩恵を受けており、単純な賛成/反対の議論とはなっていない。ホワイトカラーであってもAIを活用するスキルが低い場合は、AIの判断結果を確認するといった、言わばAIに使われるような立場になってしまうとの懸念が広がり始めている。また、近い将来AIにより人類が滅ぼされることよりも、過度にAIに依存しすぎた結果、人が思考停止になることの方が懸念され始める。

*Technology Foresightは、BIPROGY株式会社の登録商標です。

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