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ルータに関連するATMネットワーク上でのデータ転送技術-- 中 島 巳 範 -- ▲目次1. は じ め に1980年代後半,CCITT(現ITU-T:International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector)において広帯域ISDNを構築する基盤技術としてATM(Asynchronous Transfer Mode)の検討が開始された.広帯域ISDNはマルチメディア社会の基盤として考えられており,低速から高速・広帯域の範囲で文字,音声,画像および映像情報を混在させて伝送できる柔軟性と同時に各メディアの通信に必要なサービス品質(QoS:Quality of Service)を実現する技術が要求された.ATMはこれらのマルチメディアの要求を満たす通信技術であり,WAN(Wide Area Network)の高速化・マルチメディア化に対するソリューションとして考えられた.1990年代に入ると,ATMへの注目は通信サービス関係者だけでなくコンピュータ関係者の間でも急速に高まった.彼らはそれまでのLAN(Local Area Network)技術が持ついくつかの問題点,とりわけ高速性とQoSを克服する技術解としてATMを評価した.すなわち,ATMはWANだけでなくLANにも適用できる技術であり,LAN/WAN共通のシームレスな通信を実現するソリューションとしての期待が高まった.そして,ATMは究極の伝送・交換技術とまで言われ,数年後には私設網と公衆網の両方で普及すると予測された.最近になってATMの膨大な標準化作業に時間がかかりすぎたこと,Fast Ethernet*1やGiga-bit EthernetのようにATM以外にも高速通信が可能なインタフェースが出現し始めており,しかも安価で提供されていることなどによって,ATMに対する期待にも翳りが出始めている.しかし,このような現象はあまりにも大きすぎたATMへの期待に対する反動であり,ATMそのものが持つポテンシャルを否定するものではない. 一方,1982年にEthernetが市場に登場して以来キャンパスや企業ではLANの導入が急速に増加した.LANにおいてはIP(Internet Protocol)に代表されるコネクションレス型のデータ通信が一般的であり,データの送信元から目的のシステムまでのデータ転送の際の経路選択にルータが使用される.ルータの市場は拡大する一方であり,LANの普及に同期してルータネットワークは急速に拡大している.また,インターネットやNTTのOCNに代表されるIP中継網もルータネットワークの代表的なものであり,インターネットの爆発的な普及やイントラネットの構築によってWANにおいてもルータネットワークが猛烈な勢いで拡大している. 『ルータにとってのATM技術』このようなネットワークのATM化とルータネットワーク化の二つの流れの中で,ルータとATMの接点,ルータにとってのATM技術の動向について述べる. 2. ルータにとってのATM2.1 ルータとATMネットワークの関係ルータから見たATMは単なる物理伝送路であったり,仮想的なLANであったりまたは高速なスイッチングを提供する競合相手であったりする.ここでは,ルータとATMネットワークの差異と類似性について述べる.
3. ルータに関連するATM技術ATM上でデータを伝送する技術の研究および標準化は,ITU-T,IETF(Internet Engineering Task Force)およびATMF(ATM Forum)などが中心となって行っている.ITU-Tではデータ転送用のAAL(ATM Adaptation Layer)としてAALタイプ3/4およびAALタイプ5(ITU-T勧告I.363.3[1]およびI.363.5[2])を規定しているが,AALタイプ5を使用するケースがほとんどである. IETFではION(Internetworking Over NBMA)WG(Working Group)で検討が進められている.ION WGはIPATM(IP Over ATM)とROLC(Routing Over Large Cloud)の二つのWGが統合されたものである.ION WGはATMに代表されるNBMA(Non Broadcast Multiple Access)物理ネットワーク上でのデータ伝送に関する作業を行っており,RFC1577,NHRP(Next Hop Resolution Protocol),MARS(Multicast Address Resolution Server),SCSP(Server Cache Synchronization Protocol)などを検討している.また,このWGはIETF内の他のWGとの連携を始めATMF,FRF(Frame Relay Forum),ANSI(American National Standardization Institute)およびITU-Tなどの標準化組織とも協調を行っている. ATMFでは,TC(Technical Committee)において,LANE(LAN Emulation),MPOA (Multi-Protocol Over ATM)およびIPNNI(Integrated PNNI)などの検討が行われており,IETFやITU-Tと協調しながら作業を進めている. ここではIETFおよびATMFで標準化または検討されている技術並びにこれらの標準化とは異なるベンダ固有の新しいアプローチについて述べる. 3.1 IETFでの検討内容
図 1 RFC1577によるATMアドレス解決
この方法はLIS内の通信に限定されており,LISをまたがった通信はATMネットワーク上では到達可能であってもIPネットワークとしては到達不可となる.このため,LISをまたがる通信は双方のLISに所属するルータを介して行う必要がある.また,ATMネットワークを介したマルチキャスト通信は規定されていない.
図 2 NHRPを使用したATMアドレス解決
NHS-aではNext Hop解決キャッシュを検索し,NHC-xへのNext Hopエントリがない場合には他のNHSへNext Hop解決要求をフォワードする.同様の操作によってNext Hop解決要求はNHC-xのNext Hopエントリを持つNHS-xに送られる.NHS-xはNHC-xのATMアドレスをNext Hop解決応答として返送する. NHC-aはNext Hop解決応答によって得られたNHC-xのATMアドレスを使用してNHC-xへの直接のATMコネクションを設定し,そのコネクションを介して通信を行う. NHRPは,ホスト間,ホスト――ルータ間,およびルータ――ホスト間の通信に適用可能であるが,ルータ――ルータ間に適用するときは宛先ステーションがエグレスルータに隣接している場合に限られる.また,NHRPではマルチキャストを考慮していない.
図 3 ATMネットワーク上でのマルチキャストのシナリオ
図 4 SCSPにおけるLS/DCS間のキャッシュ整合の状態遷移
図 5 LANEのコンポーネントとVCCの構成
図 6 MPOAのコンポーネントと通信方法
論理サブネットをまたがる通信を行う場合には,デフォルトパスを使用する方法とショートカットパスを使用する方法の二つの方法がある. デフォルトパスを使用する方法では,MPOAホストまたはエッジデバイスはELANを介し,ルータ(デフォルトルータ)を経由してデータを転送する. ショートカットパスを使用する方法では,MPOAホストまたはエッジデバイスはルータを経由せず,通信相手のMPOAホストまたはエッジデバイスに対してショートカットパスを設定し,データを転送する.この場合,MPOAホストまたはエッジデバイスは,目的のネットワークレイヤのプロトコルアドレスに対応するMPOAホストまたはエッジデバイスのATMアドレスを知るために,MPCの機能を使用してルータのMPSに対してMPOA解決要求を行う.MPSは受信したプロトコルアドレスに対応するATMアドレスをMPOA解決応答としてMPCへ返送すると共に目的のMPOAホストまたはエッジデバイスのMPCに対してショートカットパスが使用されることを通知する.MPCとMPSとの間にはNHRP(Next Hop Resolution Protocol)を拡張したプロトコルが使用される.このプロトコルを使用することによって,一つのMPSでアドレスを解決できないときでも他のMPSへMPOA解決要求を引き継ぐことが可能となる(3.1節2)NHRPの項参照). ATMFのMPOAやIETFのNHRPの標準化が進む中,これらのアプローチとは別のIPスイッチングやTagスイッチング,ARIS(Aggregate Route-based IP Switching),CSR(Cell Switch Router)などの新しい独自技術が出現した.これらが出現した背景は,MPOA/NHRPの仕様作成に時間がかかりすぎたため,早期にルータのボトルネックを解消し,高スループットのネットワークを実現する短期解が必要となったことや独自仕様によるルータの機能拡張が必要となったためといえる.
図 7 IPスイッチングの動作
図 8 TAGスイッチングのカットスルーの経路
図 9 ARISにおけるカットスルーの経路
ARISでは,途中のISRが複数の入力VCCを一つの出力VCCにマージしてスイッチングを行うため,VCCの数を削減でき,VCCの確立や解放のための負荷を少なくできる.しかし,VCCをマージするISRでは,異なるフレームのセルが混入しないように,入力VCCからのセルを一旦フレームに組み立てた後に出力VCCへ送出する作業が必要となり,網内での遅延が大幅に増加する.網内遅延を少なくしセルの混入を防ぐためは,VCCの代わりにVPのマージを使用しVP内のVCCを割り当てるなどの拡張を行う必要がある. 4. お わ り に米国ではクライスラー社,マクドナルド社,アムコ社などの大手企業が社内のネットワークのATM化を進めている.これら先進ユーザでのATM導入の主な理由は,ルータネットワークでのルータのボトルネックの解消やネットワーク(LAN)そのものの高速化,将来的なマルチメディアアプリケーションに対する適応力などである. これら先進ユーザでは,すべてのワークステーションやPCをデスクトップATMに置き換えるのではなく,Ethernet,FDDIなどのLANおよびルータとの共存の形をとろうとしている.25Mb/sATMのように比較的安価でデスクトップATMを実現するような技術も出現し始めているが,LANやルータネットワークで使用された技術をすべて置き換えてしまうことは将来においても有り得ないであろう.また,インターネットの高速・広帯域化並びにQoSのサポートのためにATMを使用するような場合,ルータネットワークの技術とATM技術の両方を有効に使用する技術が必要となる. 本稿ではルータに関連するATM技術をいくつか述べた.このほかにも,RSVPとATMの帯域/QoSとの関連や,IPv6とATMの関連などのほか,ST2(Internet Stream Protocol version 2)プロトコル*5の使用などがあり,どの技術が優れており最終的にどれが淘汰されるかについての判断は現時点では困難である.しかし,今後ATM技術とルータネットワークの技術が融合化されていくことは確実である.この分野の技術の発展と適用に注目すべきである.
*1 Ethernetは,米国Xerox社の登録商標である.
中 島 巳 範(Minori Nakajima)
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