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『ユニシス技報』 1997年8月発刊 Vol.17 No.2 通巻54号

ルータに関連するATMネットワーク上でのデータ転送技術

-- 中  島  巳  範 -- ▲目次
  

1. は じ め に

 1980年代後半,CCITT(現ITU-T:International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector)において広帯域ISDNを構築する基盤技術としてATM(Asynchronous Transfer Mode)の検討が開始された.広帯域ISDNはマルチメディア社会の基盤として考えられており,低速から高速・広帯域の範囲で文字,音声,画像および映像情報を混在させて伝送できる柔軟性と同時に各メディアの通信に必要なサービス品質(QoS:Quality of Service)を実現する技術が要求された.ATMはこれらのマルチメディアの要求を満たす通信技術であり,WAN(Wide Area Network)の高速化・マルチメディア化に対するソリューションとして考えられた.
 1990年代に入ると,ATMへの注目は通信サービス関係者だけでなくコンピュータ関係者の間でも急速に高まった.彼らはそれまでのLAN(Local Area Network)技術が持ついくつかの問題点,とりわけ高速性とQoSを克服する技術解としてATMを評価した.すなわち,ATMはWANだけでなくLANにも適用できる技術であり,LAN/WAN共通のシームレスな通信を実現するソリューションとしての期待が高まった.そして,ATMは究極の伝送・交換技術とまで言われ,数年後には私設網と公衆網の両方で普及すると予測された.最近になってATMの膨大な標準化作業に時間がかかりすぎたこと,Fast Ethernet*1やGiga-bit EthernetのようにATM以外にも高速通信が可能なインタフェースが出現し始めており,しかも安価で提供されていることなどによって,ATMに対する期待にも翳りが出始めている.しかし,このような現象はあまりにも大きすぎたATMへの期待に対する反動であり,ATMそのものが持つポテンシャルを否定するものではない.
 一方,1982年にEthernetが市場に登場して以来キャンパスや企業ではLANの導入が急速に増加した.LANにおいてはIP(Internet Protocol)に代表されるコネクションレス型のデータ通信が一般的であり,データの送信元から目的のシステムまでのデータ転送の際の経路選択にルータが使用される.ルータの市場は拡大する一方であり,LANの普及に同期してルータネットワークは急速に拡大している.また,インターネットやNTTのOCNに代表されるIP中継網もルータネットワークの代表的なものであり,インターネットの爆発的な普及やイントラネットの構築によってWANにおいてもルータネットワークが猛烈な勢いで拡大している.

『ルータにとってのATM技術』


 このようなネットワークのATM化とルータネットワーク化の二つの流れの中で,ルータとATMの接点,ルータにとってのATM技術の動向について述べる.  

2. ルータにとってのATM

2.1 ルータとATMネットワークの関係
 ルータから見たATMは単なる物理伝送路であったり,仮想的なLANであったりまたは高速なスイッチングを提供する競合相手であったりする.ここでは,ルータとATMネットワークの差異と類似性について述べる.
1) ソフトウェアルーティングとハードウェアスイッチング
 ルータはネットワークレイヤにおいて送信元から宛先までの経路の選択を行いパケットをフォワーディングする.効率的な経路選択やフォワーディングを行うために,エンドステーションとルータ間およびルータとルータの間でルーティングプロトコルが実行され,ルータ内にルーティングテーブルが作成される.ルータで扱われるネットワークレイヤプロトコルの多くはコネクションレス型のプロトコルである.コネクションレス型のプロトコルでは送信元アドレスと宛先アドレスを付加したパケットをルータを介してホップバイホップの形態で宛先まで届ける.ルータは受信したパケットヘッダの宛先アドレスを抽出してルーティングテーブルから送出インタフェースを決定し,ヘッダ処理を行った後フォワーディングする.一般的にこの処理はソフトウェアによって行われる.
 一方,ATMネットワークはコネクション型であり,通信に先立ち送信元から宛先までのセル伝送のためのコネクションを設定する.ATM交換機では入力VPI(Virtual Path Identifier)/VCI(Virtual Channel Identifier)と出力インタフェースのVPI/VCIの対応テーブルが作成され,セルヘッダのVPI/VCIをキーとして出力インタフェースを決定しVPI/VCIの変換を行った後出力インタフェースへスイッチングする.この処理は一般的にハードウェアレベルで行われる.
 ルータではソフトウェアによるルーティングが行われ,ATMではハードウェアスイッチングが行われる.このため,ATM交換機はルータに比べ優れたパケット処理能力を持つ.
2) アドレス
 ルータでは取り扱うネットワークレイヤプロトコル(IP,IPXなど)で使用されるプロトコルアドレスをもとにして経路の選択が行われる.
 ATMではATMコネクションを設定するためにATMアドレスを使用する.ATMアドレスはITU-T勧告E.164の番号計画に基づく加入者番号かまたはOSI NSAP(Open Systems Interconnection Network Service Access Point)形式の20オクテットのアドレスが使用される.
 ルータにおいてはATMアドレスはプロトコルアドレスに対応する物理アドレスと考えられ,ルータが動的にATMコネクションの設定/解放を行う場合にはプロトコルアドレスとATMアドレスの間の対応づけが必要となる.このプロトコルアドレスとATMアドレスの間の対応づけをATMアドレス解決と呼ぶ.
3) ルーティングプロトコル
 ルータではOSPF(Open Shortest Path First)やBGP(Border Gateway Protocol)などのルーティングプロトコルを使用し,ルータネットワークのトポロジなどのルーティング情報を作成する.ルータネットワークにおいてATMを使用する場合,ルータ――ルータ間にルーティングプロトコルを転送するためのATMコネクションが必要となる.
 ATMではATMノード(交換機)間でPNNI(Private NNI)などのプロトコルを使用してATMネットワークのトポロジデータベースなどを作成し,ノード間でのシグナリング情報の転送を可能にする.PNNIはOSPFを拡張したものであるが,交換される内容はルータ間で交換される情報とは異なる.また,PNNIで使用するパス(RCC:Routing Control Channel)には専用のATMコネクションが使用される.
4) QoS
 ルータで取り扱われるプロトコルのほとんどはベストエフォートタイプの伝送であり,帯域や遅延時間に関するQoSを保証しない.しかし,(1)画像などの情報量の多い通信が増えたこと,(2)ホスト数が飛躍的に増大し続けていること,(3)映像や音声などのリアルタイム性を要求するアプリケーションをルータネットワーク上で動作させる要求が台頭してきたことなどによって,帯域や遅延時間の保証に対する要求が顕著になり始めている.このため,ルータネットワークではRSVP(Resource Reservation Protocol)のように途中のルータでのリソースを確保しエンドエンドでの帯域を保証しようとする動きがおきている.
 一方,ATMは広帯域性とQoSの保証を自身の特徴として持ち合わせている.しかし,アプリケーションのQoSに対する要求をATMレイヤに伝える標準的なメカニズムが明確になっていない.このため,現状ではATMのQoSの保証に関する特徴を生かした通信を実現できていない.
5) 伝送効率
 ルータネットワークではネットワークレイヤで使用されるパケットを単位として伝送や処理が行われる.このパケットは可変長のデータ列から構成される.
 ATMネットワークは,短い固定長のセルを高速に伝送しスイッチングすることによって統計多重効果による伝送路の利用率を高めようとする技術である.一般的にネットワークレイヤプロトコルのパケットをATMネットワークで伝送するとき,パケットは複数のセルに分割される.パケットをセル化することによってセルヘッダによるオーバヘッドが多くなりパケット単位の伝送に比べて伝送効率が悪くなってしまう.
 このようなルータとATMネットワークの差異と類似性を認識してルータとATMネットワークをどのように関連付けるかによって,ルータにとってのATMが果たす役割が変わってくる.次の章では現在使用されている,または検討されているルータに関連するATM技術について述べる.

3. ルータに関連するATM技術

 ATM上でデータを伝送する技術の研究および標準化は,ITU-T,IETF(Internet Engineering Task Force)およびATMF(ATM Forum)などが中心となって行っている.
 ITU-Tではデータ転送用のAAL(ATM Adaptation Layer)としてAALタイプ3/4およびAALタイプ5(ITU-T勧告I.363.3[1]およびI.363.5[2])を規定しているが,AALタイプ5を使用するケースがほとんどである.
 IETFではION(Internetworking Over NBMA)WG(Working Group)で検討が進められている.ION WGはIPATM(IP Over ATM)とROLC(Routing Over Large Cloud)の二つのWGが統合されたものである.ION WGはATMに代表されるNBMA(Non Broadcast Multiple Access)物理ネットワーク上でのデータ伝送に関する作業を行っており,RFC1577,NHRP(Next Hop Resolution Protocol),MARS(Multicast Address Resolution Server),SCSP(Server Cache Synchronization Protocol)などを検討している.また,このWGはIETF内の他のWGとの連携を始めATMF,FRF(Frame Relay Forum),ANSI(American National Standardization Institute)およびITU-Tなどの標準化組織とも協調を行っている.
 ATMFでは,TC(Technical Committee)において,LANE(LAN Emulation),MPOA (Multi-Protocol Over ATM)およびIPNNI(Integrated PNNI)などの検討が行われており,IETFやITU-Tと協調しながら作業を進めている.
 ここではIETFおよびATMFで標準化または検討されている技術並びにこれらの標準化とは異なるベンダ固有の新しいアプローチについて述べる.

3.1 IETFでの検討内容

1) RFC1577-Clasical IP and ARP over ATM[3]
 ATMネットワーク上でIPプロトコルを使用するための技術であり,IP over ATMとも呼ばれる.この方式はIPプロトコルによる通信を行うためのATMネットワーク用のMAC(Media Access Control)を規定したものであり,ATMネットワークを介した論理IPサブネットワーク(LIS)内でのホスト間の直接通信を可能にする.
 IP over ATMでは,エンドステーション(ホストまたはルータ)は通信相手のエンドステーションとの間でATM VCC(Virtual Channel Connection)を設定し,そのVCCを介してエンドステーション間のIPパケットの転送を行う.エンドステーション間にATM VCCを設定するためには,目的のエンドステーションのATMアドレスを知る必要がある.
 IP over ATMではアドレス解決のためのATMARPサーバを用い,クライアントとの相互作用によって目的IPアドレスに対応するATMアドレスを知る(図1).

図1
図 1 RFC1577によるATMアドレス解決

 クライアントであるエンドステーションは,通信を始める前にLIS内にあるATMARPサーバに自分のIPアドレスとATMアドレスを登録する.あるエンドステーションが目的のIPアドレスに対応するATMアドレスが不明な他のエンドステーションと通信しようとするとき,そのエンドステーションはATMARPサーバに対して目的IPアドレスを含むATMARP要求を送信する.ATMARPサーバは受信したATMARP要求の目的IPアドレスに対応するATMアドレスを検索し,ATMARP応答としてクライアントへ返送する.クライアントは解決したATMアドレスを使用して発呼を行い,目的エンドステーションとの間にATM VCCを確立し,それを介してIPパケットを転送する.この時RFC1483[4]で規定された“LLCカプセル化”方式*2が使用される.また,シグナリングで使用するパラメタはRFC1755(ATM Signaling Support for IP over ATM)[5]で詳細に規定されている.
 この方法はLIS内の通信に限定されており,LISをまたがった通信はATMネットワーク上では到達可能であってもIPネットワークとしては到達不可となる.このため,LISをまたがる通信は双方のLISに所属するルータを介して行う必要がある.また,ATMネットワークを介したマルチキャスト通信は規定されていない.
2) NHRP(NBMA Next Hop Resolution Protocol)[6][7]
 NHRPは通信相手が異なる論理サブネットワーク上に存在する場合でも通信相手との間にATM VCCを設定し,そのVCCを介したエンドステーション間の直接通信を可能にする技術である.IP over ATMやLANE(3.2節の1)参照)は同一の論理サブネットワーク(NHRPではこれをLAG:Logical Address Groupと呼び,IPプロトコルの場合のLISに相当する)内の通信を提供する技術であり,論理サブネットワークをまたがる通信にはルータを必要とした.異なるLAGに属する二つのホストがATMネットワークに接続されている場合でも,NHRPは余分なルータを経由せずにホスト間の直接のATM VCCを介した接続(ショートカットルーティングと呼ぶ)を可能にする.NHRPでは,ATMネットワーク全体が仮想的なルータの役割を果たすことになるため,ATMによる高速伝送を可能にすると共にルータによるスループットのボトルネックを解消し高スループットを提供する.また,NHRPは特定のインターネットワーキングレイヤプロトコル*3に依存せず,種々のプロトコルに適用可能となっている.
 NHRPはクライアント/サーバ型の技術であり,目的のインターネットワーキングレイヤのプロトコルアドレスに到達するためのNext HopのATMアドレスを解決する.Next Hopとは,目的相手がATMネットワークに直接に接続されているときは,目的相手自身であり,目的相手がルータを介して間接的にATMネットワークに接続されているときは,目的相手に“最も近い”ATMネットワークに接続するルータ(エグレス・ルータと呼ぶ)である.
 NHRPでは,一つのLAGは一つのサーバ(NHS:Next Hop Server)と複数のクライアント(NHC:Next Hop Client)から構成される.各NHCは自分が所属するLAGのNHSへATMコネクションを確立し,自分のATMアドレスおよびプロトコルアドレスを登録する.NHSでは,このアドレス情報からNext Hopエントリを作成する.
 LAG-aに所属するNHC-aと別のLAG-xに所属するNHC-xとの通信を図2に示す.

図2
図 2 NHRPを使用したATMアドレス解決

 NHC-aは,NHC-xのプロトコルアドレスを知っているが,対応するATMアドレスが判らないとき,所属するLAGのNHS-aにNext Hop解決要求を送信してNHC-xのATMアドレスを問い合わせる.
 NHS-aではNext Hop解決キャッシュを検索し,NHC-xへのNext Hopエントリがない場合には他のNHSへNext Hop解決要求をフォワードする.同様の操作によってNext Hop解決要求はNHC-xのNext Hopエントリを持つNHS-xに送られる.NHS-xはNHC-xのATMアドレスをNext Hop解決応答として返送する.
 NHC-aはNext Hop解決応答によって得られたNHC-xのATMアドレスを使用してNHC-xへの直接のATMコネクションを設定し,そのコネクションを介して通信を行う.
 NHRPは,ホスト間,ホスト――ルータ間,およびルータ――ホスト間の通信に適用可能であるが,ルータ――ルータ間に適用するときは宛先ステーションがエグレスルータに隣接している場合に限られる.また,NHRPではマルチキャストを考慮していない.
3) RFC2022 Support for Multicast over UNI3. 0/3.1 based ATM Networks[8]
 RFC1577,NHRPはATMネットワークを介したマルチキャストパケットの転送は対象としていない.このRFCはATMF UNI3.0/3.1(User to Network Interface version 3. 0/3. 1)で定義されているATMのポイントマルチポイント(P-MP)コネクションサービス*4を利用してネットワークレイヤのマルチキャストパケットを転送するためのメカニズムを規定している.
 このRFCでは,マルチキャストグループ内でマルチキャストを実現するため(1)「P-MP VCのメッシュ」と(2)「MCS(Multicast Server)の利用」の二つのシナリオを示しており,どちらを使用するかはマルチキャストアドレスグループ毎に決定する.
 P-MP VCのメッシュは,同じマルチキャストグループに所属するエンドステーション間に P-MPコネクションをメッシュ状に設定する方式である.例えば,エンドステーションA,BおよびCがマルチキャストグループに属している場合,AをルートとしBおよびCをリーフとするP-MPコネクション,BをルートとしAおよびCをリーフとするP-MPコネクション,CをルートとしAおよびBをリーフとするP-MPコネクションの三つのP-MPコネクションを設定する.各ルートからリーフへデータを転送することによってマルチキャストへの同報を実現する.
 MCSの利用は,同じマルチキャストグループに所属するエンドステーションの各々がMCSへのATM VCCを設定しマルチキャストのデータを転送する.MCSは,MCSをルートとし各エンドステーションをリーフとするP-MPコネクションを設定し,そのコネクション上に受信したマルチキャストデータを転送することによってマルチキャストへの同報を実現する.
 いずれの場合でもマルチキャストグループメンバまたはMCSのATMアドレス解決を行う必要がある.このATMアドレス解決はMARS(Multicast Address Resolution Server)と呼ばれるサーバによって実現される.MARSにはどのマルチキャストアドレスグループがいずれのシナリオでマルチキャストを実現するかの情報が設定される.
 図3に示すように,エンドステーションはMARSへATMコネクションを設定し自分のATMアドレスおよびマルチキャストグループアドレスを通知する.MARSではマルチキャストグループエントリにエンドステーションを追加し,MARSからのP-MPコネクションのリーフに当該エンドポイントを追加する.次に,エンドステーションはMARS要求メッセージを送信し,他のマルチキャストグループメンバまたはMCSのATMアドレス解決を要求する.MARSはマルチキャストグループメンバ全部のATMアドレスリストまたはMCSのATMアドレスを返送すると共に,他のマルチキャストグループメンバまたはMCSへ追加されたエンドステーションのATMアドレスを通知する.

図3
図 3 ATMネットワーク上でのマルチキャストのシナリオ

 エンドステーションはATMアドレスリストに含まれるすべてのエンドステーションをリーフとするP-MPコネクションまたはMCSへのポイントポイントコネクションを設定する.マルチキャストグループの他のメンバの各々またはMCSはそれぞれが持つP-MPコネクションのリーフに当該エンドステーションを追加する.このようにしてマルチキャストの環境が設定される.
4) SCSP (Server Cache Synchronization Protocol)[9]
 SCSPはサーバのキャッシュに登録されたクライアント情報(例えばNHRPのNHSに登録されたクライアントのプロトコルアドレスとATMアドレスのマッピング情報)を複数のサーバのキャッシュ間で同期させるためのプロトコルを規定している.
 NHRPやMARSにおいて,サーバはクライアントからのATMアドレス解決を提供するという重要な役割を持っている.クライアントの数が多くなると,(1)サーバの負荷分散および(2)リダンダンシが問題となる.SCSPを使用することによって,負荷分散の観点からは,複数のサーバを使用して論理的に一つのサーバを実現し,個々のサーバを利用するクライアントの数を減らすことが可能となる.またリダンダンシの面では,サーバ障害時に別のサーバに接続して処理を続けることが可能となる.
 SCSPでは,一つのサーバ(LS:Local Server)と他のサーバ(DCS:Directly Connected Server)間でATMコネクションを設定し,定期的にHelloメッセージを交換する.このメッセージ交換によってサーバ間の双方向コネクションの確立と維持が行われる.
 双方向コネクションが確立した状態でLSとDCSの両サーバ間でCA(Cache Alignment)メッセージを交換し,Masterとなるか,Slaveとなるか,の折衝を行う.
 Masterはサーバ間で交換するメッセージに付加される順序番号の管理責任を持ち,SlaveはMasterが指定した順序番号に整合した順序番号を使用する.順序番号は交換されるメッセージの抜けや重複を確認するために使用される.
 その後,LSとDCSは相互にCSA(Client State Advertisement)レコードのサマリ情報であるCSAS(Client State Advertisement Summary)メッセージの交換を行った後「キャッシュ更新状態」となり,CSUS(Client State Update Solicit)メッセージによって相手側のサーバのCSAレコードを要求する.
 CSUSメッセージを受信したLSまたはDCSはCSU(Client State Update)メッセージによってCSA Recordを送信する.LSまたはDCSは必要なCSAレコードをすべて入手すると「整合状態」となる.LSとDCS間のメッセージ交換と状態遷移の関連を図4に示す.

図4
図 4 SCSPにおけるLS/DCS間のキャッシュ整合の状態遷移

 「整合状態」または「キャッシュ更新状態」でキャッシュエントリの更新が行われたとき,LSまたはDCSはCSUメッセージを相手のDCSまたはLSに送信し,更新されたCSAレコードを伝える.
3.2 ATMFにおける検討状況
1) LANエミュレーション[10]
 LANEはATMネットワーク上で仮想的なIEEE802.3またはIEEE802.5のLANセグメントと同等なサービス(これをEmulated LAN=ELANと呼ぶ)を提供する技術である.このため,LANEを使用するエンドステーションはあたかも既存のLANに接続しているようにATMネットワークを使用でき,既存LANを使用するアプリケーションをそのまま使用できるという特徴を持つ.また,LANEではATMに直接接続するエンドステーション間だけでなく,ATMに接続するエンドステーションとLANに接続するエンドステーションとの間やLANに接続するエンドステーション同士間でもELANを介して通信することが可能である.
 LANEはクライアント/サーバ型の技術であり,ELANは(1)LEクライアント(LEC)とLANEサーバから構成され,LANEサーバは(2)LECS(LE Configuration Server),(3)LES(LE Server),および(4)BUS(Broadcast Unknown Server)の三つのサーバから構成される.一般的にLECはATMインタフェースを持つエンドステーション,ルータ/ブリッジ/ハブまたはATM交換機のLANインタフェース内に存在し,LANEサーバはATMインタフェースを持つエンドステーションまたはATM交換機内に存在する.
 LANEでは,LECは通信したい相手のLECとの間にATM VCCを確立し,ユニキャストフレームを送信する.LANEは目的LECに対するATMアドレス解決の方法およびLECからのマルチキャスト/ブロードキャストフレームを送信するための方法を規定している.
 LECはLECSからLESのATMアドレスを得る.その後LECはLESへVCCを確立し,自分のATMアドレス,MACアドレスなどを登録する.
 LECが通信したい相手のLECのMACアドレスを知っており,そのMACアドレスに対応するATMアドレスを知る必要があるとき,LECはLESへATMアドレス解決要求(LE-ARP要求)を送信する.LESではLE-ARP要求で示されたMACアドレスに対応するATMアドレスを検索し,LE-ARP応答としてLECへ通知する.LECはLE-ARP応答によって得た目的LECのATMアドレスに対してATM VCCを確立し,そのVCC上にフレームを送信する.
 LECがマルチキャスト/ブロードキャストフレームを送信したい場合,LECはBUSへのATM VCCを確立し,そのVCC上にフレームを送信する.BUSは受信したフレームを登録されたすべてのLECに対して転送する.LANEにおける各コンポーネントとATMVCCの関連を図5に示す.

図5
図 5 LANEのコンポーネントとVCCの構成

 LANEではMACレベルでのエミュレーションサービスを行うため,ネットワークレイヤのプロトコルに依存せず,各種のプロトコルデータを転送することができるが,二つのELAN間をまたがる通信を行うためには両方のELANに参加するルータを介する必要がある.
2) MPOA[11]
 MPOAはLANEをネットワークレイヤのレベルへ拡張した技術である.
 LANEはブリッジの技術を使用してATMネットワーク上で仮想のLANを実現するが,構築されたELANは一つの論理サブネットワークとなる.論理サブネットワークをまたがる通信のためにはそれぞれのELANに対してLECとして参加しているルータを経由する必要があり,ルータのボトルネックによってATMネットワークが持つスループットを十分に活用することができない.MPOAは論理サブネットをまたがる通信の場合でもルータを介することなく,ATMネットワークに接続された装置間にATM VCC(ショートカットパスと呼ぶ)を確立し,直接にデータの送受信を行わせることによって,ATMネットワークの能力を活かした高速データ転送を実現するものである.
 MPOAは,(1)ATMネットワークに直接接続するMPOAホスト,(2)レガシーLANインタフェースとATMインタフェースをもち,その間のデータ転送機能を提供するエッジデバイスおよび(3)ルータから構成される.MPOAホストおよびエッジデバイスはMPOAクライアント機能(MPC)とLANEのLEC機能の両方を持ち,ルータはMPOAサーバ機能(MPS)とLEC機能の両方を持つ.図6にMPOAのコンポーネントと通信方法を示す.

図6
図 6 MPOAのコンポーネントと通信方法

 MPOAでは同一論理サブネット内の通信はLANEを使用する.
 論理サブネットをまたがる通信を行う場合には,デフォルトパスを使用する方法とショートカットパスを使用する方法の二つの方法がある.
 デフォルトパスを使用する方法では,MPOAホストまたはエッジデバイスはELANを介し,ルータ(デフォルトルータ)を経由してデータを転送する.
 ショートカットパスを使用する方法では,MPOAホストまたはエッジデバイスはルータを経由せず,通信相手のMPOAホストまたはエッジデバイスに対してショートカットパスを設定し,データを転送する.この場合,MPOAホストまたはエッジデバイスは,目的のネットワークレイヤのプロトコルアドレスに対応するMPOAホストまたはエッジデバイスのATMアドレスを知るために,MPCの機能を使用してルータのMPSに対してMPOA解決要求を行う.MPSは受信したプロトコルアドレスに対応するATMアドレスをMPOA解決応答としてMPCへ返送すると共に目的のMPOAホストまたはエッジデバイスのMPCに対してショートカットパスが使用されることを通知する.MPCとMPSとの間にはNHRP(Next Hop Resolution Protocol)を拡張したプロトコルが使用される.このプロトコルを使用することによって,一つのMPSでアドレスを解決できないときでも他のMPSへMPOA解決要求を引き継ぐことが可能となる(3.1節2)NHRPの項参照).
3) IPNNI[12]
 IPNNIは,PNNIとネットワークレイヤのルーティングプロトコルを統合して,ATMネットワーク上での統合ルーティングプロトコルを実現しようとするものである.
 MPOAでは異なる論理サブネット間の通信にショートカットパスの使用を可能にするためのATMアドレス解決を提供するが,MPS間のルーティング情報の交換はスコープ外となっており,MPOAとは別にルーティングプロトコルを必要とする.この事はNHRPでも同様であり,NHRPは既存のルーティングプロトコルと一緒に使用されるものであることが示されている.
 一方,ATMネットワークでは,エンドステーション間のQoSを満足するATMのコネクションを確立するために,ATM交換機(ノード)間でルーティング情報の交換を行うPNNIが存在する.複数のMPSから構成されるMPOAが動作する場合,ATMネットワーク上ではネットワークレイヤのルーティングプロトコルとPNNIの二つのルーティングプロトコルが必要となる.
 IPNNIは,PNNIで交換される情報にインターネットワーキングレイヤの情報を追加することによって,QoSも考慮できる強力なルーティングプロトコルに統合しようとするものである.IPNNIによって,ATM交換機とMPSは同じルーティングプロトコルを使用することが可能となる.ATMFではIPNNIをMPS間のルーティングプロトコルとして位置づけようとしているが,ATMネットワークだけではなく既存のLAN上でのルーティングプロトコルとしても適用可能であり強力に推進するベンダもある.
3.3 その他の技術
 ATMFのMPOAやIETFのNHRPの標準化が進む中,これらのアプローチとは別のIPスイッチングやTagスイッチング,ARIS(Aggregate Route-based IP Switching),CSR(Cell Switch Router)などの新しい独自技術が出現した.これらが出現した背景は,MPOA/NHRPの仕様作成に時間がかかりすぎたため,早期にルータのボトルネックを解消し,高スループットのネットワークを実現する短期解が必要となったことや独自仕様によるルータの機能拡張が必要となったためといえる.
1) IPスイッチング[13]
 IPスイッチングはイプシロン社が提案した高速IPスイッチング技術である.
 IPスイッチングはその名が示すとおり,IPプロトコルだけに着目し,ATM交換機とルータを組み合わせて高速なIPパケットの転送と中継を行おうとするものである.IPスイッチングは,(1)ATM交換機にIPルーティングのソフトウェア(IPスイッチコントローラ=IPSCと呼ぶ)を組み込んだIPスイッチ,および(2)既存のLAN環境をIPスイッチで構成されるATMバックボーンに接続するIPスイッチゲートウェイ(IPSGW)から構成される.
 システムの起動時にIPSGWはデフォルトフォワーディングチャネルとしてIPSCへのATMコネクションを確立する.既存のLAN環境からATMネットワークを介してリモートへ送信されるIPパケットは,IPSGWによってセル化され,IPスイッチのIPSCへ送られる.IPSCでは受信したセルをIPパケットに組み立て,宛先IPアドレスに基づいてデフォルトフォワーディングチャネルを介してIPSGWへフォワーディングする.この時IPパケットは再度セル化される.同時にIPSCでは「フロー」のクラス分けを実施する.ここで言う「フロー」とはIPパケットのヘッダーに含まれる上位プロトコル種別(TCPやUDPなど),サービス種別などの特性が同じであり特定の送信元から特定の宛先へ送信される一連のIPパケットのことを示す.IPSCはそのフローが長時間存在し大量のデータを取り扱うものである場合,IPSCを経由せずにIPSGW間でATMのハードウェアレベルによるカットスルースイッチングを適用しようと判断する.それ以外のフローの場合,IPSCを介したホップバイホップの転送によるルーティングを適用しようと判断する.一般的にはFTP,Telnet,HTTP,オーディオ/ビデオなどはカットスルーで行い,SMTP,SNMPなどはホップバイホップで行う.
 IPSCがカットスルースイッチングを行うと判断したとき,IPパケットの送信側のIPSGWに対して専用のATMコネクションを設定し,その上でフローを送信するように要求する.送信側のIPSGWはIPSCに対して新たにATMコネクションを設定する.
 一方,デフォルトフォワーディングチャネル上でIPパケットを受信した受信側のIPSGWでも同様の判断を行い,IPSCに対して専用のATMコネクションを設定し,その上でフローを送信するように要求する.IPSCは受信側のIPSGWに対して新たにATMコネクションを設定する.その後,IPSCは入力用のATMコネクションと出力用のATMコネクションをATMのハードウェアレベルで対応づけるように指令を出す.これによって,送信側のIPSGWと受信側のIPSGWはIPSCを経由せずにATMコネクションで接続されることになる(図7).

図7
図 7 IPスイッチングの動作

 このようなカットスルースイッチングを用いることによって,IPパケットの転送能力はATM交換機のトラフィック処理能力に依存するようになり,今までのルータに比べると1桁以上転送能力が高くなるといわれている.
2) TAGスイッチング[14]
 Cisco社が提案するルータのパケット処理能力の向上とネットワークの拡張性を目指す新しいアーキテクチャである.TAGスイッチングは汎用的なスイッチング技術であるが,ATMに対して高い親和性を有している.
 TAGスイッチングはパケットに短い固定長のTAGを付加し,TAGをキーにしてフォワーディングを行うことによって処理を簡略化し,フォワーディング能力を高めようとするものである.
 TAGスイッチングを実行する装置をTAGスイッチと呼ぶ.TAGスイッチには,(1)パケットのフローに対しTAGの割付けを行い,正しいTAG情報をTAGスイッチグループ内で維持する機能および,(2)自分が持つTAG情報と入力パケットに付加されたTAGによってパケットをフォワーディングする機能が必要となる.また,TAGはパケットの宛先アドレスに対して割り付けられるため,TAGスイッチはルーティングプロトコルとネットワークレイヤでのフォワーディング機能も持つ必要がある.従って,TAGスイッチはルータを拡張したものと捕らえることができる.
 ATMベースのTAGスイッチングの場合,ATMセルのVCIフィールドがTAGの役割を果たす.TAGスイッチはルーティング情報から到達可能な宛先アドレス向けのネクストホップのTAGスイッチへの経路に対して出力TAG(VCI)を割当て,出力VCIと宛先アドレスの対応をネクストホップへ通知する.ネクストホップのTAGスイッチでは受信したVCI情報と自分の中の出力TAG(VCI)とを関連づける.TAGスイッチ間では宛先アドレス毎にVCIによって識別されるコネクションが作られ,TAGスイッチでVCI値の付け替えを行ったフォワーディングが行われる(図8).

図8
図 8 TAGスイッチングのカットスルーの経路

 TAGスイッチングはラベル変換を基本とするフォワーディング技術であり,ATMも元来VPI/VCIで示されるラベルを変換する技術である.ATM交換機にルーティングプロトコルとTAGスイッチングの制御機能を追加することによって比較的簡単にTAGスイッチを実現できる.
3) CSR(Cell Switch Router)[15]
 東芝が提唱するルータにとってのATMの有効活用を目的とするアーキテクチャである.
 CSRは従来からのIPパケットのフォワーディング機能に加えてATMセルの交換機能を持つルータである.CSRは今までのルータベースの相互接続の概念を持ちながらATMによる高いスループットと低遅延を実現する.IPパケットはセル化され,CSRを経由してホップバイホップで転送されるが,宛先までの途中のCSRではセルのままVPI/VCIベースのスイッチングを行う.
 CSRではATMに接続するホストまたはルータとCSRの間にデフォルトVCと指定(Dedicated)VCの2種類のATM VCCを使用する.
 デフォルトVCは従来型のIPヘッダ処理によるホップバイホップのフォワーディングを行うためのVCであり,IPパケットは送信時にセル化され受信側のCSRで一旦IPパケットに組み立てられた後フォワーディングするというプロセスを繰り返して目的のホストまたはルータまで届けられる.
 指定VCはセルのままVPI/VCIベースのスイッチングを行うためのVCであり,IPスイッチングのような特定の「フロー」のために使用される.CSRはフロー毎に入力指定VCと出力指定VCとをセルレベル(VPI/VCI)で対応づける.これによって,送信元のホストまたはルータから目的のホストまたはルータまでの経路は複数の指定VCが連結して作られるATMバイパスパイプによって接続される.
 ATMバイパスパイプの設定方法は,指定VCの設定方法や,ATMバイパスパイプ設定の起動などの制御方法,ATMバイパスパイプ設定のためのメッセージを伝送するチャネルなどによって複数存在する.
4) ARIS[16]
 ARISはIBMが提唱する高速IPスイッチングのための技術である.
 ARISではISR(Integrated Switch Router)と呼ばれるATM VCCのスイッチング機能をサポートする標準的なIPルータを使用する.IPパケットは入り口のISRでセル化され,隣接するISRを経由してホップバイホップで転送されるが,途中のISRではセルベースのスイッチングを行う.これによって,ISRで構成されるネットワーク全体を通して,ハードウェアの速度でのIPパケットのスイッチングを実現しようとするものである.
 基本的な考えは,IPスイッチング,TAGスイッチング,CSRと同様に,ISR間のATMコネクションをATMレベルで結び付ける方式である.ARISの特徴は,一つの宛先IPアドレスに向けての複数のATMコネクションを途中のISRでマージし,最終的に一つのATMコネクションに結び付けることによって,その宛先IPアドレスに対応する出口のISRをルートとするツリー状の経路が作られることにある(図9).

図9
図 9 ARISにおけるカットスルーの経路

 ISRがある宛先IPアドレスに対する出口のISRであると認識したとき,そのISRは隣接する他のISRに対してその宛先IPアドレス向けに専用に使用するVC確立メッセージを送信する.その後,隣接ISRはさらに上流のISRに対して同様の手順を繰り返すことによって,一つの出口のISRから複数の入り口ISRまでのツリー状のATMコネクションの結び付けが行われる.
 ARISでは,途中のISRが複数の入力VCCを一つの出力VCCにマージしてスイッチングを行うため,VCCの数を削減でき,VCCの確立や解放のための負荷を少なくできる.しかし,VCCをマージするISRでは,異なるフレームのセルが混入しないように,入力VCCからのセルを一旦フレームに組み立てた後に出力VCCへ送出する作業が必要となり,網内での遅延が大幅に増加する.網内遅延を少なくしセルの混入を防ぐためは,VCCの代わりにVPのマージを使用しVP内のVCCを割り当てるなどの拡張を行う必要がある.

4. お わ り に


 米国ではクライスラー社,マクドナルド社,アムコ社などの大手企業が社内のネットワークのATM化を進めている.これら先進ユーザでのATM導入の主な理由は,ルータネットワークでのルータのボトルネックの解消やネットワーク(LAN)そのものの高速化,将来的なマルチメディアアプリケーションに対する適応力などである.
 これら先進ユーザでは,すべてのワークステーションやPCをデスクトップATMに置き換えるのではなく,Ethernet,FDDIなどのLANおよびルータとの共存の形をとろうとしている.25Mb/sATMのように比較的安価でデスクトップATMを実現するような技術も出現し始めているが,LANやルータネットワークで使用された技術をすべて置き換えてしまうことは将来においても有り得ないであろう.また,インターネットの高速・広帯域化並びにQoSのサポートのためにATMを使用するような場合,ルータネットワークの技術とATM技術の両方を有効に使用する技術が必要となる.
 本稿ではルータに関連するATM技術をいくつか述べた.このほかにも,RSVPとATMの帯域/QoSとの関連や,IPv6とATMの関連などのほか,ST2(Internet Stream Protocol version 2)プロトコル*5の使用などがあり,どの技術が優れており最終的にどれが淘汰されるかについての判断は現時点では困難である.しかし,今後ATM技術とルータネットワークの技術が融合化されていくことは確実である.この分野の技術の発展と適用に注目すべきである.


*1 Ethernetは,米国Xerox社の登録商標である.
*2 RFC1483 Multi Protocol Encapsulation over AAL 5において規定されたプロトコルデータのカプセル化方法の一つである.プロトコルデータにLLC(Logical Link Control)ヘッダを付加しAALタイプ5上で転送する.LLCヘッダによってカプセル化されたプロトコル種別を識別できるので一つのATM VCC上で複数のプロトコルを転送することが可能となる.
*3 NHRPは,非放送型多元接続(NBMA:Non-Broadcast Multiple Access)のネットワーク(ATM網,X.25網,フレームリレー網,電話網など)に共通に適用できる技術である.このため,ネットワークレイヤのプロトコルを物理的なネットワークアクセスに依存する部分と物理的なネットワークに依存せずエンド・エンドで使用される部分に分類し,前者をサブネットワークレイヤプロトコルと呼び,後者をインターネットワーキングレイヤプロトコルと呼ぶ.ここでは多くのNBMAのうちATMネットワークに限って言及している.
*4 P-MPコネクションはATMネットワークを介して1対nの片方向通信を実現するものである.送信側(ルート)から送信したセルはATMネットワーク内でコピーされ複数の受信相手(リーフ)へ送信されるため,ATMネットワークを介した複数相手への同報通信を可能とする.動的なリーフの追加や削除も可能であり,ATMFのLANEでもこのコネクションの使用を想定している.
*5 IPv5とも呼ばれる連続的な情報の転送を可能とするプロトコルである.RFC1816[17]で仕様が定義されておりRFC1946[18]でATM上でのST2の使用が記述されている.'96年末から'97年春にかけて学術情報センタ,NTT,KDDおよび米国ウィスコンシン大学が共同で行ったATMを利用した日米間のマルチメディア通信の実験で使用された.
その他,本稿に記載の会社名,商品名は一般に各社の商標または登録商標である.


参考文献
[ 1 ] ITU-T Recommendation I. 363. 3 “B-ISDN ATM Adaptation Layer (AAL) Specification Type 3/4”,1996.
[ 2 ] ITU-T Recommendation I. 363. 5 “B-ISDN ATM Adaptation Layer (AAL) Specification Type 5”,1996.
[ 3 ] M. Laubach,RFC1577 “Classical IP and ARP over ATM”,01/20/1994.
[ 4 ] J. Heinanen,RFC1483 “Multiprotocol Encapsulation over ATM Adaptation Layer 5”,07/20/1993.
[ 5 ] M. Perez他,RFC1755 “ATM Signaling Support for IP over ATM”,02/17/1995.
[ 6 ] J. Luciani他,Internet-Draft “NBMA Next Hop Resolution Protocol(NHRP)”,<draft-ietf-rolc-nhrp-11>,03/05/1997.
[ 7 ] Derya H. Canserver,Internet-Draft “NHRP Protocol Applicability Statement”,<draft-ietf-ion-nhrp-appl-01>,03/24/1997.
[ 8 ] G. Armitage,RFC2022 “Support for Multicast over UNI 3. 0/3. 1 based ATM Networks”,11/05/1996.
[ 9 ] J. Luciani他,Internet-Draft “Server Cache Synchronization Protocol(SCSP)”,<draft-ietf-ion-scsp-01>,04/16/1997.
[10] ATM Forum,“LAN Emulation over ATM version 1. 0”,Jan. 1995.
[11] ATM Forum Technical Committee Multiprotocol Sub-Working Group,“MPOA Baseline Version 1”,btd-mpoa-mpoa-01. 11 (1996).
[12] I-PNNI Story Stage 1/2/3/4,Bay Networks,July 1996.
[13] P. Newman他,RFC 1954 “Transmission of Flow Labelled IPv4 on ATM Data Links Ipsilon Version 1. 0”,05/22/1996.
[14] Y. Rekhter他,RFC2105 “Cisco Systems Tag Switching Architecture Overview”,02/06/1997.
[15] Y. Katsybe他,RFC2098 “Toshibas Router Architecture Extensions for ATM:Overview”,02/04/1997.
[16] Richard Woundy他,Internet-Draft “ARIS:Aggregate Route-Based IP Switching”,<draft-woundy-aris-ipswitching-00>,Nov. 1996.
[17] L. Delgrossi他,RFC1819 “Internet Stream Protocol Version 2 (ST2) Protocol Specification-Version ST2+”,08/11/1995.
[18] S. Jackowski,RFC1946 “Native ATM Support for ST2+”,05/17/1996.


執筆者紹介

中 島 巳 範(Minori Nakajima)
 1976年電気通信大学電気通信学部通信工学科卒業.同年日本ユニシス(株)入社.ユーザのネットワーク設計・構築に従事した後,ISO,JIS,INTAP,TTCなどの通信プロトコル開発・制定やルータ上でのATMインタフェース開発などを担当.現在,ネットワークシステム部統合技術室に所属.日本情報処理学会会員,電信電話技術委員会第2部門委員会第2専門委員会委員,同第2部門専門委員会第5専門委員会委員,および情報処理相互運用技術協会WAN専門委員会委員.

  

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