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クラウドファースト

クラウド*1が本格的に普及し、企業はあらゆる場面でクラウドの選択を優先するようになる。これをクラウドファーストと呼ぶ。クラウドとオンプレミス*2の使い分けが一般的になり、クラウドとオンプレミスの連携やオンプレミスからクラウドへの移行を考慮して企業はITシステムを構築していく。クラウドとオンプレミスの統合運用が成熟し、包括的な管理・運用が行われ運用が効率化していく。また、ミッションクリティカルシステムへのクラウド適用は「慎重」から「肯定的」になり、クラウド上で稼働させる事例が増加していく。

図1 クラウドファースト
図1 クラウドファースト

*1 クラウド:パブリッククラウドおよびIT資産を事業者が所有するプライベートクラウドを指す。
*2 オンプレミス:企業が所有・運用するデータセンターおよびIT資産を企業が所有するプライベートクラウドを指す。

背景と現在の状況

企業におけるクラウドの採用は、2010年は懐疑的であったが、2011年には積極導入にシフトした。JUASの企業IT動向調査20121によると、売上高1000億円以上の企業で積極導入への変化が顕著である。SaaSの中でメールは小規模な企業の導入率が高いものの、SFA・CRM、その他は、売上高1兆円以上の企業が4割と高い導入率を示している。

先進企業は「メール/グループウェア/開発環境にクラウドを利用し、コールセンターや会計伝票処理にビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)を利用する」段階から、「基幹系の一部におけるクラウドの試行(災害対策を含む)」や「社内ITインフラのプライベートクラウド化」段階へ一歩進めている。また、利用する部分と所有自営する部分を連携し一体運営する技術・手法の確立に取り組みつつある。

ミッションクリティカルシステムへのクラウドの適用は「慎重」から解けつつある。全日空はグローバル性を重視して、国際線の予約・搭乗システムをスペインのアマデウス社が提供するSaaSのアルテアに2015年度下期からの導入を目標に切り替えると発表した2。

3〜5年後の姿

クラウドファースト:クラウド選択の定着

多種多様なクラウドが併存する環境における異種クラウド間のデータ連携やID認証連携などの課題に対応する事例やリファレンスの蓄積、相互運用のためのインタフェースの提供、セキュリティの標準化などが行われていく。クラウドを選択する上での課題が解決されていくことにより、オンプレミスからクラウドへのシフトがゆっくりと、しかし着実に進んでいく。企業がシステム構築を検討するときは、まずクラウドを最初の選択肢として検討を進めることになる。これをクラウドファーストと呼ぶ。

ラッピング(既存システムを考慮)したコンポーネント化技術により社内外サービス連携によるシステム構築が可能となっていく。クラウドサービス、BPO/BPU等の利用型サービスは、セキュリティ、信頼性、スケーラビリティ、統制可能性等を勘案して最適選択されていく。

図2 所有と利用の最適選択と統合
図2 所有と利用の最適選択と統合

マルチクラウドにおける仲介サービスの拡大

ビジネスの競争激化や競争優位の短命化により、システム構築期間の短縮が今以上に要求される。そのためシステムを一から構築するのではなく、既存のクラウドサービスをビジネス要求に合わせて組み合わせることによるシステム構築が増加していく。複数のクラウドサービスを組み合わせる場合は、多数のクラウドベンダから要求にあったサービスを選択して組み合わせてシステムを構築することになる。そのためユーザID管理や運用、契約、支払いはベンダ毎に行うことになる。これらの煩雑さを解消して、クラウドベンダと企業を仲介するサービスが拡大する。この仲介サービスを「クラウドサービスブローカー(CSB:Cloud Service Broker)3」と呼ぶ。

クラウドサービスブローカーは、ビジネス要求に適したクラウドサービスを選択、複数のクラウド基盤にまたがるユーザID認証、セキュリティ管理、データ連係、アクセス管理、相互運用などを支援・仲介する。

図3 クラウドサービスブローカー
図3 クラウドサービスブローカー

また、IaaSでのシステム構築から運用・保守までのプロセスをダッシュボード上で構築管理することができるツールの活用が拡大していく。アプリケーションや業務に応じた多数のサーバテンプレートから適したテンプレートを選択、システム展開を行うことで構築期間の短縮が実現されていくであろう。

ミッションクリティカルシステムのクラウド適用事例の増加

複数のデータセンターに暗号化したデータを分割保存する技術など、ミッションクリティカルシステムを支える新たな技術が提供されることにより、クラウドにおけるRASIS*3が向上していく。そのため、ミッションクリティカルシステムのクラウド適用は依然慎重ではあるが、競争優位が求められないサブシステムからコミュニティクラウドへの切り出しが始まり、ミッションクリティカルシステムをクラウド上で稼働させる事例が増加していく。

銀行では、勘定系システムはオンプレミスのままであるが、一部のネット銀行などが先行して勘定系以外のサブシステムのクラウドへの切り出しが行われていく。証券/保険/製造/流通では、外資系の企業が先行してコモディティ化したサブシステムのクラウドへの移行事例が増加していく。

移行先のクラウドは、クラウドサービスブローカーによる複数のクラウドを組み合わせたシステムと、IaaS上に構築する独自システムの二択になっていくであろう。

*3 RASIS:コンピュータシステムの信頼性を総合的に評価する基準。Reliability(信頼性)、Availability(可用性)、 Serviceability(保守性)、Integrity(保全性)、Security(機密性)

参考文献

  1. 日本情報システム・ユーザー協会 (JUAS)、企業IT動向調査報告書 2012、2012年5月、P12、P21

  2. 全日空、プレスリリース ANA、国際線予約システムを業界大手アマデウス社と契約、2011年5月 別ウィンドウで開く

  3. Gartner、Press Releases Gartner Says Cloud Consumers Need Brokerages to Unlock the Potential of Cloud Services、2009年7月9日

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