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フロントシステムにおけるスピードファーストの広がり

ITが企業の様々な活動に浸透していき、ビジネスに直接関与するIT(フロントシステム)が広がっていく。フロントシステムではサービスの早期稼動が強く求められる。そのような要求に伴い、インフラストラクチャ・運用領域、ソフトウェアエンジニアリング領域、業務アプリケーション領域において、俊敏性を高めるITが普及していく。フロントシステムでは、サービスの早期稼動のために、実装方式や標準化への準拠やベンダーロックインの回避などへの拘りは、伝統的なシステムの場合に比べると少なくなる。

図1 品質最優先から品質+スピードファーストへ
図1 品質最優先から品質+スピードファーストへ

背景と現在の状況

現在、一般的な企業では、業務の効率化やコスト削減のためのITは一通りの整備が終わり、これまであまりIT化が進んでいなかったデータを活用した経営の効率化のためのITや、事業を直接支えるITなどの導入が進められている。そのようなビジネスの前線を支えるシステムに、クラウドやスマートデバイスといった新しい技術や高速なワイヤレスネットワークを活用する動きが出始めている。

一方、ユーザー(企業ユーザー、一般消費者を問わず)の生活は、上記の新技術を利用した環境に変わりつつあるため、B2C、B2Bに関わらず、社外との接点を持つシステムにおいては、上記新技術を活用したサービスの早期投入がビジネス成功の大きな要因になってきている。

3〜5年後の姿

企業において、ビジネスに直接関与するITが広がり、ビジネスの最前線のシステムはスピードファーストが求められるようになる。それとともに、ビジネスの俊敏性を高めるITが普及していき、その要求に対応するようになる。

フロントシステムに求められる非機能要件

ITが企業の様々な活動に浸透していき、ビジネスに直接関与するIT(フロントシステム)が広がっていく。そのようなITに求められる最も重要な要件は、伝統的なITに求められてきた品質の安定ではなく、必要な品質を確保しつつも、ビジネスを早く容易に立ち上げ、手をかけずに運用し、顧客のニーズやビジネスの状況の変化に合わせて改善・修正でき、ビジネスを成功させることである。言い換えれば、そのようなITにおいては伝統的なITとは異なり、QCD(品質、コスト、納期)の優先順位が、QやCよりもDの方が高い。つまり、スピードが優先(スピードファースト)される。

この傾向はB2Cのビジネスにおいて先行しており、特に流通業やサービス業のECにおいて顕著である。そのような業界では、初期に提供する機能を制限しても、サービス開始時期を早め、ローンチ後に機能や品質を強化していくアプローチがよくとられる。今後は保守的な金融機関においてもその傾向が出てくる。例えば、ネット銀行やネット証券では、インターネットとスマートデバイスを使った魅力的な顧客サービス価値の開始時期が、徐々にビジネスの成否を左右するようになってきている。このことは、今後、非ネット系の金融機関にも影響を与えるようになる。

ビジネスの俊敏性を高めるITの普及

フロントシステムにおいてスピードファーストが広がるのに伴い、俊敏性を高めるITが普及していく。情報システム部門には、スピード感の変化や俊敏性を高めるITへの対応が求められるようになり、その要求への対応が今後の情報システム部門の大きなテーマになる。フロントシステムには、そのシステムを担当する事業部門の意向が強く反映されることになるが、事業部門はITの専門組織ではないので、実装方式や標準化への準拠やベンダーロックインの回避などへの拘りはあまりなく、手軽に導入できるSaaSなどのクラウドや垂直統合製品などの利用が進む。また、ITの運用を自らが行うことはせずにアウトソースすることが増えていくだろう。

ビジネスの創出や変革のためのシステム構築を下支えするITサービスや技術として以下の3つの領域で注目すべき変化がある。

表1 注目すべき3つの領域

インフラストラクチャ・運用領域 NWの高速化/運用管理技術の進化/サービスの拡大により利便性が向上。
オンプレミス環境では、垂直統合型システム基盤が進化。
ソフトウェア
エンジニアリング領域
「作るものの量を減らす」技術に加え「作る作業を簡単かつ短期化する」技術が進化し、開発の場所、時間の制約がなくなる。
業務アプリケーション領域 各種SaaSの品揃えが増えクラウドサービスの利用が加速する。
開発の容易性と生産性の高い業務特化型PaaSが登場し普及する。

インフラストラクチャ・運用領域

クラウド環境では、ネットワークの高速化/運用管理技術の進化/サービスラインナップの拡充によって、IaaS上の様々なサービス群の利便性やサービスレベルが向上する。そのため、それらサービス群を使うことで多様なシステムの早期立ち上げが可能になっていく。しかし、それらサービス群は、ほとんどの場合、クラウドベンダー独自の技術のため、それらサービス群を利用すると、そのベンダーにロックインされる可能性がある。

オンプレミス環境では、垂直統合型システム基盤が進化する。システムの利用シーンに応じた最適なパフォーマンスや使い勝手を実現するために、システム構築の知識・経験に基づいて構築されたソフトウェアとハードウェアの構成情報が豊富に用意され、データベース化される。このデータベースにアクセスしビジネスの要求に応じて最適なシステムの構成パターンを選択することで、的確な構成のシステム基盤をスピーディーに導入できるようになっていく。垂直統合型システム基盤についても、クラウド環境の場合と同様に、その技術が独自技術の場合が多いので、その利便性はベンダーロックインとトレードオフとなる。

ソフトウェアエンジニアリング領域

アプリケーションパッケージやクラウドサービス・垂直統合されたインフラ環境などの「作るものの量を減らす」技術と、開発ツールやアジャイル開発などによる「作る作業を簡単かつ短期化する」技術が進化・浸透していく。

論理設計や簡易言語の情報から物理設計やコード・画面を自動生成するツール類、少ない記述量で表現可能なスクリプト言語や領域特化言語、統合開発環境、複数のクラウドサービスを組み合わせてシステムを構築するツール群などにより、開発生産性が向上する。このような開発を容易にする環境が整うことに伴い、事業部門が自ら開発を担当し、ベンダーと委任契約し直接要求を伝え、実装を都度確認しながらアジャイル型で開発するという形態も徐々に増えていく。
また、クラウド上の開発環境を複数の拠点や自宅から24時間利用できるようになり、アプリケーション開発のための場所や時間の制約がほとんどなくなる。

業務アプリケーション領域

新規システムの構築、既存ITの最適化やグローバル対応を素早く行うため、パッケージやクラウドサービスを利用して業務アプリケーションを構築するケースが多くなり、独自に作り込む業務アプリケーションは少なくなっていく。

例えば、eコマース管理、ERP、マーケティング管理、PDM/PLM、サプライチェーン管理などの各種SaaSの品揃えが増え業務でクラウドサービスの利用が加速し、導入事例が充実する。開発の容易性と生産性の高い業務特化型PaaSも登場し普及する。これによって、業務アプリケーション領域でのクラウドサービスの利用が拡大していく。

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