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スマート・テクノロジーによる実世界の自動化

人工知能、ロボット、高度なデータ処理技術などのスマート・テクノロジー*1の成熟・普及が進み、日常生活や仕事の様々な場面で自動化が広がっている。工場の生産ラインでの自動化が一層進むのに加え、店舗での来客受付・相談対応や各種の段取・調整から各種機械設備の維持修理、さらに農業・漁業まで自動化が広まる。その結果、手間暇が省け、人手不足が緩和されるとともに、事業所全体の運営についてテクノロジーが管理監督者を総合的に支援するようになり、さらにバリューチェーン全体を最適化できる産業が増え始める。要注意な点としては、職のシフト・雇用への影響やセキュリティ確保、さらに自動化に伴う法制度整備(例:自動車の自動運転中の交通事故の取り扱い)などがある。

スマート・テクノロジーによる実世界の自動化

*1 ここではインテリジェンスを内蔵した製品・サービスの総称として幅広く捉えている

背景と現在の状況

製造業が先導してきたロボットやセンサーの利用は、生産現場においてネットワーク接続により一層高度化するとともに、サービス業や農林水産業などにも広まっている。人とロボットとが同じ生産ラインで協働してモノ作りするようになりつつあり、また生産ラインの機械・設備・原材料等にセンサーやRFIDなどを付けネットワークに接続することにより、機械・設備の故障や原材料の欠品による生産ライン停止や生産効率の低下を予防できるようになりつつある。またイカやマグロの漁業はロボット無しでは成り立たなくなっている。

製造業の生産現場以外に目を転じると労働集約型の業務が多く、特に日本経済の約7割を占めるサービス産業に顕著である。たとえば店舗での来客受付・相談対応や各種の段取・調整(店舗間の在庫融通など)などは担当従業員のスキルや気配り、さらに当事者間の人間関係に依存する形で顧客満足度向上や精緻な需給調整・マッチングを実現している。そのような分野でもロボット利用や自動化の試みが始まっている。

またネットの世界では各種の手続き・段取・調整でも自動化が進んでおり、利用者の意図を察し手間暇を軽減する各種のパーソナル・アシスタント(例:Apple Siri)が当り前化しつつある。

3〜5年後の姿

人工知能、ロボット、高度なデータ処理技術などのスマート・テクノロジーにより、様々な産業の様々な場面で、状況に応じた選択幅の大きいルーチン作業を含めて自動化が進んでいる。来客の相談対応や各種の段取・調整の自動化が進むのと並行して、現業システムと情報システムの融合により、業務遂行から実績計上までの自動化が進むため、手間暇が省け人手不足が緩和され、さらに人と情報システムとのインタフェース(データ入力、画面表示/遷移など)のスリム化が始まりつつある。また個々の業務を支援するテクノロジーとシステムが相互に連携するようになるため、事業所全体の運営についてテクノロジーが管理監督者を総合的に支援するようになり、さらにバリューチェーン全体を最適化できる産業が増え始める。他方で普及への課題の候補として職のシフト・雇用への影響やセキュリティ確保、さらに自動化に伴う法制度整備などに留意する必要がある。

ここで論じる自動化の範囲は、人々を支援する自動化、現場業務を支援する自動化、事業運営を支援する自動化に分かれている。

人々を支援する自動化

来客の受付や相談への対応といったフロント業務をロボットが行う店舗が広がり始める。たとえばビジネスホテルでは来客受付をロボットが行い、金融サービスでは新規顧客の資産運用相談の最初の部分をロボットと人工知能が行うようになる。

店舗間の在庫融通、取引先との需給・日程調整といったバック業務や、現場全体を見渡した要員資源スケジュール調整、プロジェクト編成などでも、ステークホルダー間の情報共有・公開を前提に、人工知能による自動化が使われ始める。
さらに自動車運転に伴う面倒事、たとえば事故に巻き込まれた際、ウェアラブル機器などと自動車が自動的に必要な連絡・手配をしてくれるサービスの実験が始まっている。

このような業務の専門家は、状況に応じた選択幅の大きいルーチン作業をロボットや人工知能に任せて、より高度な顧客サービスや事業所全体の効率的な運営、バリューチェーン全体の最適化に注力できるようになる。

現場業務を支援する自動化と情報システムのスリム化

現業システムにセンサーなどが追加されネットワーク接続されるとともに、商品や部品・原材料などにRFIDなどが付加されるようになるため、生産ライン、物流倉庫、店舗等の状況・実績がリアルタイムで自動的に見える化できるようになる。その結果、現場での変化や異常などに迅速・的確に対応できるようになる。運輸や出張修理等の出先業務も同様で、たとえばトラック輸送ではスマートフォン、ドライブレコーダー、GPSなどを利用して走行状況や作業状況を管理者が常時把握できるのみならず、勤怠や売掛金の実績を即座に自動的に計上できるようになる。

以上のように現業システムが革新され状況・実績のデータ収集が自動化され、人間によるデータ入力が不要となるため、情報システムのスリム化が可能になる。すなわち、データ入力画面等が大幅に削減される一方、自動収集されたデータの辻褄が合っているか管理者が検証するための仕組みに注力するようになる。このため情報システムのスリム化に着手する企業が現れ始める。

事業運営を支援する自動化

現業システムの革新と情報システムとの融合に加えて、情報の活用により人々の協働を支援するシステム(協働支援情報活用システム)や、予測してどのように行動するかの立案と決定を支援するシステム(行動志向予測/立案/決定支援システム)との連携が進むことにより、事業所全体の運営についてテクノロジーが管理監督者を総合的に支援するようになる。たとえばコンビニ店舗では季節・時間帯・来客状況に応じて要員配置・店頭商品補給・設備調節(低温陳列棚、エアコンなど)の全体バランス確保をテクノロジーが代行できるようになる。その結果、事業所や事業の運営のルーチン作業部分の負荷が軽減されるため、管理監督者は、競争に勝ち顧客を満足させ一層儲けるための創意工夫に注力できるようになる。さらに生産ラインからサプライチェーン、販売チャネルまでデジタル化され相互接続され、企業は需要変化に迅速・的確に対応可能になりつつある。

農業では果実の収穫、搾乳などでのロボットの利用から農場運営全体の支援に広がりつつある。

職のシフトの本格化と自動化普及減速要因(セキュリティと法制度)

自動化の進展により業務遂行に必要な体力・スキルのハードルが下がるため、高齢者や非熟練労働者の就労機会が増え人手不足が緩和される一方、状況に応じた選択幅の大きいルーチン作業をロボットや人工知能が代行できるようになるため、業務の専門知識・経験がそれほど高くない人々の雇用への影響は避けられず、社会全体として職のシフトが本格化する。

実世界の自動化は、モノや場所がインターネットにつながることによって実現されるため、セキュリティリスクは不可避であり、安全・安心をどう確保するのかが大きな課題となる。たとえば自動運転中の自動車がサイバー攻撃で乗っ取られて暴走し事故を起こす可能性がある。技術と法制度の両面での対策整備の進捗いかんで実世界の自動化にブレーキがかかる可能性がある。

法制度の整備については犯罪・テロ・事故対策以外に、ロボットや人工知能による自動化に判断やアルゴリズム作成を委ねた場合、「結果に対する責任をメーカー、利用者、所有者の間でどのように分担するのか」「人工知能が作成したアルゴリズムの知的所有権をどう取り扱うか」などを国際的な合意として確立する必要が生じる可能性があり、この面でも自動化普及への減速要因が生じる可能性がある。

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