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エネルギー業界に広がるブロックチェーン: Enabilityコラム

2018年3月27日

ブロックチェーンの基本的な考え方

ICTや金融業界の最新トレンドのひとつで、ニュースなどでも取り上げられる機会が増えた仮想通貨「ビットコイン」。その根幹を支えているのが、仮想通貨など高い信頼性が求められる金融取引において不正を防ぐ役割を果たしている「ブロックチェーン」という技術です。ここではまず、ブロックチェーンの基本的な仕組みなどについて解説していきます。

ブロックチェーンとは、情報をブロック単位で保存し、そのブロックを鎖状につなげて保存していくデーターベースのことです。ビットコインなど仮想通貨においては、一定期間内におけるビットコインなどの仮想通貨による取引きの履歴(=トランザクション)をまとめた情報のことをブロック、そのつながりがチェーンということになります。

ブロックチェーンの最大の特徴は、管理の分散化です。例えば、銀行取引の場合、データは通常、銀行側で管理されますが、ブロックチェーンは、ネットワークに参加している全てのユーザーのもとで保存され、共通で管理されることになります。こうした「P2P(ピアツーピア)方式」で分散管理される形式から、ブロックチェーンは「分散型取引台帳」とも呼ばれます。

取引履歴をまとめたブロックデータは、オープン化(共有)されているため、誰でも見ることができますが、「◯月☓日 AさんがBさんにいくら振り込んだ」といった具体的な取引内容については、データから一定の文字数の不規則な文字列(ハッシュ値)を生成する「ハッシュ関数」で暗号化されるため、確認することはできません。なお、ブロックデータには、暗号化されたトランザクションと、直前のブロックデータのハッシュ値が含まれており、それぞれの間での整合性が確認されることで「合格」と判定され、ブロックチェーンに「承認」される仕組みになっています。

ブロックチェーンがもたらすメリット

  • リスクを分散できる
    全員でデータを管理することで、特定の機関の一元管理による中央集権化が生じないことも、ブロックチェーンの大きなメリットです。データは全員のPC上に保存されているので、例えば、ハッキングなどによってどこかのシステムがダウンしても、正しいデータは必ず生き残ることができます。
  • データの改ざんが不可能になる
    全員でデータを管理することで、特定の機関の一元管理による中央集権化が生じないことも、ブロックチェーンの大きなメリットです。データは全員のPC上に保存されているので、例えば、ハッキングなどによってどこかのシステムがダウンしても、正しいデータは必ず生き残ることができます。
  • データの改ざんが不可能になる
    ブロックチェーンは、暗号化された上、分散して保存されます。新たな取引きの履歴を加える場合、暗号化されたデータとの整合性をユーザー全員でチェックし、正規のものだけが承認されることになります。これは、仮にデータの改ざんをしても、多くのユーザーの持つデータとの整合性が取れないため、すぐに発覚することを意味します。意図的に操作できない透明性の高さも、ブロックチェーンのもつ大きな特徴といえます。

エネルギー業界におけるブロックチェーンの広がり


これまで、電力流通のシステムは、大規模発電所や変電所、送電網などを保有する電力会社が最上流を占める「中央集権型」でした。しかし、家庭用太陽光発電の普及や、再生可能エネルギーなどによる小規模発電施設の増加、さらには固定買取制度の実施などに伴い、一方通行だった電気の流れは、徐々に双方向なものへと変わり始めています。

これに伴い、家庭で発電した電力を、大手電力会社のみではなく、自由化で電力小売事業に参入した新電力会社に売電できるようになりました。さらに、現状の制度上ではまだ認められていませんが、電力会社の介入を完全に排し、需要家同士で売買したり(P2P取引)できるような、新たな電力取引に関する仕組みの模索も積極的に行われています。

電力小売り契約(中央集権型システム)、P2P(ピアツーピア)取引 イメージ

このように、電源や供給元が分散化され、双方向にやり取りされる時代には、その流通や取引で用いられることになる情報システムにも、新たな形式への適応が求められることになります。そこで注目を集めているのが、ブロックチェーンの技術です。

例えば、現状では、家庭用の太陽光発電システムで発電した電力を新電力会社に売電する場合でも、取引に直接関与しない大手電力会社の電力メーターのデータに基づいて、売り先となる電力会社に電力が提供される仕組みになっています。

この場合、仮に大手電力会社のシステムに不具合が生じると、本来、その電力会社と直接関わりのない電力の取引や供給にも、大きな支障をきたすことになります。事実、電力の小売事業の自由化がスタートした直後には、同様のトラブルが発生し、新電力会社が顧客に正しく電力使用量を請求できないという事態がありました。これは、中央集権的な旧来の需給体制に即した情報システムが、新たな電力取引に対応しきれなかったことが要因だと考えられています。

同様のケースでブロックチェーンを用いた場合、電力使用量や売電する電気量などを記録し、複数のユーザーで管理するため(分散管理)、たとえひとつのシステムがダウンしたとしても、すぐにリカバリーでき、上記のようなトラブルに発展しにくくなります。

そのほかにも、「データの改ざんができない」「セキュリティ面でも優位性が高い」といったブロックチェーン特有のメリットは、双方向での取引きなどの増加も予想されるこれからのエネルギー業界にも適しているという認識が、広く浸透し始めています。

海外のエネルギー業界におけるブロックチェーン技術の活用事例

ブロックチェーン技術の適応が進む海外のエネルギー業界では、すでに100以上のユースケースがあるという調査報告もあります。ここでは、欧米を中心とする各国でのブロックチェーン技術活用事例についてご紹介します。

  • CASE1:イギリス/カナダ
    トロント証券取引所ベンチャー市場に上場しているBTL社は、ブロックチェーンのプラットフォームである「interbit」を用いた実証実験を、ヨーロッパとアメリカで実施しています。さらに、オーストラリアの電力会社Wien Energy、EYと共にブロックチェーンを利用した電力供給のテストを開始しています。そのほか、クレジットカード会社のVisaとの協業も進めるなど、エネルギー分野に限らず、金融業界においてもサービスの展開を進めています。
  • CASE2:アメリカ(ニューヨーク)
    アメリカのLO3 Energy社では、2016年よりニューヨーク・ブルックリン地区で太陽光発電システムを持つ家庭を対象に、同地域内でブロックチェーン技術に基づく電力取引を行う実証実験を実施。エネルギー業界におけるブロックチェーン技術の、最も早いユースケースのひとつとなりました。
  • CASE3:オーストラリア
    オーストラリアのPower Ledger社では、「EcoChain」という許可制ブロックチェーンによる電力P2P取引に関する試みが進められています。同社では、既存の電力会社のシステムと共存する新システムの確立を目指しており、2017年には、電力会社との合意のもと、1,000個以上のスマートメーターを用いた実証実験も実施しました。
  • CASE4:オランダ/イギリス
    オランダに本社を置くGuardtime社では、イギリスのthe UK Future Cities Catapultとの連携のもと、原子力発電や送配電網などのインフラのサイバーセキュリティを向上するべく、ブロックチェーン技術を活用した新たなシステムの開発を進めています。同社では、ブロックチェーン技術を活用したシステムの確立によって、データの改ざん耐性を高め、手続きの自動化やスマート化を図り、インフラ全体のセキュリティ向上を目指すとしています。
  • CASE5:ドイツ
    ドイツの大手電力会社であるRWE社では、 ブロックチェーン技術をベースとする分散アプリケーションのためのプラットフォーム「Ethereum」を用いて、認証・決済システムを搭載した電気自動車(EV)の新たな充電システムを開発しました。従来の充電方式では、時間単位で料金が請求されるため、「30分~」といった補給時間の下限が設定されていましたが、同社の新システムでは、補給量単位での支払いが可能となるため、将来的には、信号待ちの短い停車時間などを利用したこまめな充電なども可能になると考えられています。

家庭用太陽光発電システムや蓄電システムの普及により、これまで一方通行だった電力の流れが双方化しています。これに伴い、エネルギーの消費や取引の仕方にも多様な選択肢が生まれ始めています。こうした状況に対応するため、海外・国内のエネルギー業界にも、ブロックチェーンの仕組みがどんどん取り入れられています。P2P取引などをはじめ、今後も従来では考えられなかった様々な取引形態が誕生する可能性が秘められています。

*Enabilityは、日本ユニシス株式会社の登録商標です。
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