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電力先物取引市場の必要性や今後の課題: Enabilityコラム

電力先物取引市場の必要性や今後の課題

2019年11月12日

次世代の代替エネルギー問題を考えるうえでひとつのキーワードとして浮上しているのが「電力先物取引」です。2019年9月に開設した電力先物取引市場の基礎知識についてお伝えしていきます。

日本では電力先物取引市場が必要不可欠

今や世界規模で本格導入が進められている電力先物取引。日本国内では、都度何らかの理由によって延期されてきた経緯がありましたが、2019年9月に電力先物取引市場が本格的に開設されました。

この記事では、電力先物取引の基本的な仕組みについて解説するとともに、日本国内における電力先物取引市場の重要性および今後の展望について実践的にお伝えしていきます。

電力先物取引とは

電力にかぎらず、先物取引とは、「特定の商品の値動きをあらかじめピンポイントで想定したうえで現時点でのアクションを決定する」という取引形態を表します。

この仕組みを電力先物取引にあてはめると、将来のある時期に生じる電力の需給バランスを予測したうえで、その時点までの売買価格をあらかじめ指定しておく、という取引方式ということになります。

つまり、仮に2020年4月時点での電力の売買価格をキロワットあたり30円に定めたとすると、それまでの期間にどんなに電力価格の高騰が起こったとしてもあらかじめ定められた「キロワットあたり30円」という価格は変わりません。

実際には、現在、日本卸電力取引所(JEPX)が取引の前日に翌日分の電力を売買する「スポット市場」が中心となっており、きわめて短期的な先物取引が主流になっています。

電力先物取引市場では、「ベースロード電力」と「日中ロード電力」の2種類の取引が可能です。ベースロード電力とは「24時間分」の電力をひとつの単位として将来の売買価格を決定する方式で、一方の日中ロード電力では需給予測の単位が「6時~18時」の間となります。

電力先物取引市場創設のメリット

電力先物取引の概要と基本的な仕組みについて御理解いただけたところで、ここからは日本国内における電力先物取引市場のメリットについて具体的にお伝えしていきます。

電気事業者の価格変動リスク削減

日本国内での現状を見るかぎりJEPXのスポット価格については変動の幅が非常に大きく、電力を売買する電気事業者としては取引にともなうリスクが高い状況にあります。

また、数ある投機商品の中でも電力は価格の変動が激しい商品であるという特徴があり、たとえば、真夏や真冬などのピーク時にはベースの価格帯が高騰するなど、長期的な価格の予測が非常に困難であるという側面があります。

今後、日本国内でも電力先物取引を用いて、上に挙げたような取引における問題点をほぼクリアできると考えられております。

ヘッジ取引が可能になる

ヘッジ取引について

画像引用:経済産業省(https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/denryoku_sakimono/pdf/001_05_00.pdf)

金融投機の最大のハードルは、「将来のリスクをどのようにコントロールするか」という点にあります。

先物取引市場によって、仮に取引の過程で現物の売買価格が極端に下落した場合でも、その損失を先物利益によって補填したり、あるいは反対に先物取引での損失を現物取引での利益でカバーしたりすることが可能になります。

そうした意味でも、先物取引と電力の売買は非常に相性が良く、今後はむしろワンセットのように捉えていくことが必要になるという意見もあります。

季節要因による電力不足への対策

電力を先物取引によって売買することで、季節ごとに生じる電力不足にも前もって対応することができ、効果的なリスクヘッジにつなげることができます。

現に、四季による気候の変動が激しい日本では、真夏や真冬など、暑さ、寒さがピークに達する時期にはどうしても電力が不足する地域ができてしまい、売買価格も不安定になってしまいます。

電力先物取引市場の今後の課題

2019年9月に開設された電力先物取引ですが、今もなお長期的な運用にあたってはいくつかの課題が指摘されています。

市場の上場申請に先立って発起人を一定以上の人数集める必要がありましたが、申請当初、大手電力会社による参入が見込めず、期限ぎりぎりになって中小企業の事業者から募る、という方針に変更になりました。

市場の開設自体にはこぎつけたとしても、長期的なスパンで市場を運用し、一般レベルまで認知度を高めるためには、まず大手電力会社が電力先物取引の重要性を認識し、大手企業間で活発な電力の先物売買が行われる土壌が育ってくる必要があります。

その意味では、過去数回にわたって市場開設が延期になったこと、そして、TOCOMの市場運用能力にも一定の疑義がさしはさまれた経緯を考え合わせると、残念ながら電力先物取引の門出は順風満帆とは言えないようです。

電力先物取引は今後の日本でも必須となる

市場の開設が数年間のうちに数回延期になったこと、上場申請にあたっての発起人集めが当初の想定よりも難航したことなど、まだまだ課題も多い電力先物取引ですが、国内のエネルギー問題を抜本的に解決するためには必須の施策であることは間違いありません。

重要ポイント
1.電力先物取引とは将来の電力の売買価格を前もって決めておく取引形態のこと
2.電力先物取引には、売買価格の高騰や急落にそなえられるというメリットがある

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