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ガス小売自由化、スタート後の現状について: Enabilityコラム

2018年2月1日

電力自由化に続き、ガス自由化もスタート

「エネルギー一体改革」として、2016年の電力小売自由化に引き続き、2017年4月からスタートしたガス小売自由化。これにより、もともと規制のないLPガスを除く、都市ガスや簡易ガスの小売事業への新規参入が可能になりました。ここでは、自由化の主な対象となった「都市ガス事業」の流れについて、あらためて確認していきましょう。

都市ガス事業は、大きく分けて次の4つの流れで構成されています。

都市ガス事業の流れイメージ図
  1. 調達・輸入(ガス小売事業者が担当)
    日本の場合、都市ガスの原料となるLNG(液化天然ガス)の大部分は、海外から輸入されています。そのため、ガス事業の第一段階は、LNG原産国での買付けや価格交渉、その後の国内への輸送などの調達・輸入業務から始まります。なお、LNGは火力発電などの燃料としても使用されるため、国内におけるLNG輸入量の上位は、ガス会社ではなく電力会社が占めています。
  2. LNG基地受入れ〜都市ガス製造(ガス製造事業者が担当)
    LNG輸送のための専用タンカーで原産国から日本に輸送されたLNGは、荷揚げの後、大都市近郊の港湾などの国内35カ所に整備されているLNG基地(内13カ所をガス製造事業者が所有)に貯蔵されます。ガス製造事業者が保有するLNG基地貯蔵されたLNGは、ガス製造所に送られた後、気化、臭化などの工程を経て、都市ガスに加工されます。
  3. ガス導管輸送(一般ガス導管事業者、または特定ガス導管事業者が担当)
    加工された都市ガスの大部分は、ローリーなどで輸送される一部を除き、ガス導管事業者が保有するガス導管によって、各供給エリアへと送り出されます。現在、全国にあるガス導管総延長のうちのおよそ5割は、東京ガス、大阪ガス、東邦ガスの大手ガス会社3社が保有しています。
  4. 小売販売(ガス小売業者が担当)
    ガス導管を通じて各エリアに送られた都市ガスは、ガス小売事業者によって、工場や企業などの大口需要家から、一般家庭を中心とする小口需要家に向け安定的に供給されます。

都市ガスの小売自由化以前は、これら都市ガス事業の全ての工程を、LNG基地やガス導管を保有する大手ガス会社をはじめとする、いわゆる「大手ガス会社」が独占的に担ってきましたが、今回の小売自由化により、(1)の「調達・輸入」と(4)の「小売販売」の事業には、ガス以外のエネルギー事業者や新ガス会社の参入が可能になりました。一方、(2)の「LNG基地受入れ」や(3)の「ガス導管輸送」は規制事業のまま残されていますが、従来の都市ガス会社から2022年までに導管部門を分離する方針が出されるなど、現在も新たな環境づくりが進められています。

自由化後のガス小売事業者の状況は?

次に、ガス小売自由化スタート後の現在の状況や、今後、さらに期待されている変化などについてみていきましょう。

ガス小売業者登録状況

ガス小売自由化に伴い、ガスの小売事業を行う業者には、「ガス小売事業者」の登録が義務付けられることになりました。これは、新たにガス小売事業に参入する会社だけではなく、既存の都市ガス会社なども同様です。経済産業省では、自由化に先立つ2016年8月から、ガス小売事業者の事前登録受付けをスタートしており、2017年10月末までに旧都市ガス会社や旧大口ガス事業者、旧ガス導管事業者をはじめ、電力会社など他のエネルギー事業者、LPガス事業者、さらには地方自治体など、50の企業や団体が登録を完了しています。

また、新たな料金プランなどを需要家自らが選択し、ガス小売契約先を切り替える「スイッチング」も進んでいます。2017年9月末日までの全国でのスイッチング申込件数は約43万件。地域別にみると、近畿が約24万件と圧倒的に多く、全体の約55%を占める結果となっています。

スイッチング申込件数地域別割合

自由化スタート後の2017年6月の都市ガス総販売量をみると、そのうちの約1割をガス小売事業に新規参入した事業者が占めています。これは、電力事業者や新ガス会社など、新たに参入した企業による都市ガス供給が進みつつあることを示しているといえるでしょう。

ガス自由化により生じた動きは?

ガス小売自由化により、既存の都市ガス会社や電力事業者、新ガス会社との間で競合が生じたことで、新たな料金メニューや既存料金の引き下げ、さらにはそれぞれの企業の強みや既存サービスを活かした新サービスメニューなど、料金やサービスに関する競争や多様化が進んでいます。

ここで、すでに登場している新料金メニューや新サービスの類型についてまとめてみましょう。

新料金メニュー

高齢者割引プランや、ガスを用いた家庭用床暖房や温水器の利用者に対する割引プランなど、おもに一般家庭などを対象とした様々な割引プランが登場しています。

  • ポイントサービス
    ガスの使用料金に応じたポイントを貯めることで、商品や電子マネーに交換できるなど、さまざまな特典を受けられるポイントサービスも一般的なものとなっています。
  • セット割引
    都市ガスと電気、さらには通信など、他のエネルギーや通信インフラとセットで契約することで、割引価格で利用できるセット料金プランも数多く登場しています。
  • 駆けつけサービス
    トイレなどの水回りのトラブル発生時や、カギを紛失した際などに、専門のスタッフが駆けつけるサービスなど、ガスだけではなく、生活インフラ周りに関する様々なサポートサービスも登場しています。

そのほか、ガスの使用状況を離れて暮らす家族に通知する「見守りサービス」や、ガスの使用状況をWEB上でいつでも確認できる「見える化サービス」など、各企業や団体の創意工夫のもと、料金プランやサービスの多様化が進んでいます。

ガス小売事業における「参入障壁」とは?

都市ガスの小売自由化以降、様々な企業や団体が事業者登録を行っていることはお伝えしましたが、その大部分は、電力会社をはじめとするエネルギー事業者によって占められています。電力の小売自由化の際には、IT企業など、従来はエネルギー事業とは無縁の企業の参入などが大きな話題ともなりましたが、現在まで、都市ガス事業では異業種参入の動きがみられません。

その背景には、電力とは大きく異なる都市ガス事業ならではの事情があります。ここでは、都市ガスの小売事業参入における具体的な「参入障壁」についてみていきます。

  • 参入障壁:LNG基地の問題
    今回自由化された「調達・輸入事業」に参入するためには、独自のLNG基地やそれと同等の能力をもつ施設を保有する必要があります。当然ながら、そのような大規模施設を新たに保有するためには、莫大な投資が必要となりますが、それこそが都市ガス事業への新規参入を阻む最初の壁となっているのです。一方、発電燃料としてLNGを使用してきた電力会社などの場合は、すでに自前のLNG基地を保有しているなど、莫大な投資をする必要が無く、ガス事業への参入が容易という事情があります。
  • 参入障壁:ガス管の託送供給設備
    都市ガスの小売事業に参入する際に直面するもうひとつの障壁は、ガス導管などの「託送供給設備」に関する問題です。上記の通り、ガス導管の新設や管理事業は、従来通りの規制事業とされていますので、現状ではおもに大手ガス会社などが継続して行っています。小売事業に新規参入する企業は、ガス導管の利用料を支払うことで、各エリアの導管を使用してガスを供給できる仕組みになっています。しかし、都市ガスの導管は、日本全国をカバーしているわけではありませんので、供給したいエリアで導管を借りることができないケースもあります。その場合は、自前で導管を新設する必要が生じますが、LNG基地と同様、こちらも莫大な費用がかかります。これも新規参入が進まない理由のひとつと考えられています。

    また、都市ガスの場合、電力市場に比べ、そもそもの市場が小さいという根本的な問題もあります。企業や家庭などで使用されるガスの場合、都市ガスに限らず、LPガスなど他の選択肢が存在します。また、近年では「オール電化住宅」など、ガスを一切使用しない世帯なども増加しています。そのため、ガス市場全体で都市ガスの占めるシェアは、市場のおよそ50%前後といわれており、電力と比較した場合、自由化の対象となる範囲が限られているといえます。

    こうした様々な事情から、新ガス会社などの参入はあまり進んでいないのが現状です。

電力小売自由化と比較しても、現在まで、新規参入する企業が限られている都市ガス小売事業。しかし、ニチガスと東京電力が提携しガス事業者をはじめとしたエネルギー業界向けにリリースしたクラウド方式の業務・物流支援システムである「雲の宇宙船」を始め、新規参入への障壁を大幅に引き下げてくれるサービスも登場しています。競合が少ない現状、こうしたサービスなどを上手に活用し、都市ガスの小売事業に参入できれば、大きなビジネスチャンスになる可能性が高いと考える企業も増えています。

*Enabilityは、日本ユニシス株式会社の登録商標です。
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