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自治体も電力事業に続々参入!電気も“地産地消”の時代へ: Enabilityコラム

2018年2月1日

電力自由化で注目される「電気の地産地消」とは?

電力の小売事業が全面自由化されたことにより、需要家である企業や個人消費者が、事業規模やライフスタイルに合わせて、電力を購入する事業者を自由に選べる時代が幕を開けました。以前までは、あるエリア内で供給される電力は既存の電力会社がそのエリアに割当てている発電所で発電した電力に限られていました。電力小売自由化で購入先を自由に選択できるようになったことに伴い、例えばお隣同士の家庭でも、それぞれ異なる発電所で発電された電力を利用できるようになりました。

そんな状況の中、大きな注目を集めているのが、「電気の地産地消」というキーワード。地域の新電力会社や電力小売事業に参入した自治体などを通じて、地元の発電施設で発電された電力を購入しようという機運が高まっているのです。

こうした電気の地産地消には、送電ロスの低減や、再生可能エネルギーの促進、さらには地域における発電事業の振興にともなう新たな雇用の創出など、様々なメリットがあると考えられています。

ここでは、電力の地産地消における理想形ともいわれている、ドイツの「シュタットベルケ」の事例についてご紹介します。

シュタットベルケとは?

シュタットべルケは、「電気」「ガス」「水道」「交通」など、地域のエネルギー産業や生活インフラの運営・整備など公共サービスを展開する地域密着型の事業体のこと。「電気」の事業体は、現在、ドイツ全域におよそ900社が存在し、電力市場におけるそのシェアは約20%に上るといわれています。こうした事業体は、市などが100%出資のもとで運営されているものもあれば、民間企業が出資するケースもあります。

そんなシュタットべルケの成功事例のひとつとされるのが、マンハイム市のMVVエナジー社のケースです。同社では、電気、ガス、熱などのエネルギー事業を柱に、水道事業、廃物処理事業など、様々な異なるサービスをパッケージとして提供。その売上高は、約4億ユーロ(550億円)に達しています。

日本とドイツの生活環境の違いはあるものの、こうしたシュタットべルケの事例は、将来の日本における電力の地産地消のモデルケースと考えることもできます。日本でも、地域における電力事業を実施する自治体などが増加していますが、都市ガスの小売自由化もスタートしたことで、自治体による電力とガスのセット販売などがさらに広がっていけば、「日本版シュタットべルケ」として成長する可能性があります。

進む地方自治体の電力事業参入

電力の地産地消の今後の行方として、カギとなってくるのが地方自治体の電力事業参入の動きです。
ここでは、地方自治体の電力事業参入が拡大している理由、それにともない期待される変化やメリットについて探っていきます。
地方自治体の電力事業への参入には、大きく分けて下記3つのメリットがあると考えられています。

  1. 電力コストの削減、地域への電力の安定供給
    日本全国におよそ1700存在する地方自治体の多くが、学校や病院、図書館、公民館など、様々な公共施設を保有しています。当然ながら、これらの運営には膨大な量の電力が消費されることになります。そのため、自治体の電力コストに対する意識は高く、電力事業への参入の背景には、恒常的な電力コストを削減したいという思いもあります。
    また、東日本大震災以降、発電所事故にともなう「計画停電」などを経験した自治体を中心に、「電力の安定供給」に関する意識が高まったことも大きく関係しているとされています。つまり、地元に発電設備を確保することで、送電ロスのリスクなども大幅に低減しつつ、災害に強い電力の供給システムを構築する狙いもあるのです。
  2. 再生可能エネルギーの活用促進
    未利用地など、もともと発電に適した資産を保有している自治体は少なくありません。電力の固定価格買取制度(2012年7月スタート)の施工以降、これらの有効活用策として、電力設備を整備する動きも活発化しています。とくに注目を集めているのが、再生可能エネルギー。地元にある河川や渓谷などの豊かな自然環境や、広大な未使用地等を活用し、水力や風力、太陽光などの再生可能エネルギーに関連する発電所や発電設備を整備する自治体も増加しています。例えば、畜産や林業などの盛んな地域では、家畜のフンや木質廃材を利用したバイオマス発電を実施するなど、地域ごとの特性や産業を活かした新たな発電施設も登場し、再生可能エネルギーの普及にも大きく貢献しています。
  3. 地域経済の活性化
    自治体が電力の発電、小売事業に参入することで、これまではエネルギーコストとして外部の電力会社に支払っていた料金を、地域内のみで還流することが可能になります。これによって生じる地域経済の活性化も、自治体の電力事業参入で期待される効果のひとつ。また、発電設備を整備することは、新たな雇用の創出にもつながります。ある程度の価格競争力のある電源を確保することで、需要家にも経済的なメリットを提供できるようになれば、大量の電力を消費する地元企業などの電力コストを削減し、その発展に寄与することもできるかも知れません。

事例:日本での自治体の電力事業への参入

自治体の電力事業への具体的な参入事例をご紹介します。

  • 鳥取県鳥取市様
    鳥取県鳥取市は、2015年8月に「鳥取ガス」と共同で電力の小売販売を行う新会社「とっとり市民電力」を設立しました。さらに、再生可能エネルギーによる発電事業を支援する目的で、同年12月には、地元企業6社と共同で「とっとり環境エネルギーアライアンス」を設立するなど、新たなエネルギー供給体制の構築に本格的に乗り出しています。
  • 群馬県中之条町様
    群馬県中之条町では、東日本大震災をきっかけに、電力の地産地消に向けた新たな供給体制の構築に取り組んでいます。2013年6には、町議会の決議を受け、「再生可能エネルギーのまち中之条」を宣言。それにともない、特定規模電気事業者として「一般財団法人 中之条電力」を設立し、公共施設の電力をまかなうとともに、2016年以降は電力の小売事業にもいち早く参入しました。ここで使用する電力は、町内に設置された3つのメガソーラーから供給されていますが、現在も農業用水による水力発電や、町の80%以上を占める森林から得られる間伐材などを使用したバイオマス発電など、新たな取り組みが進められています。
  • 福岡県北九州市様
    福岡県北九州市では、「北九州市地域エネルギー拠点化推進事業」として、市が所有する2カ所の焼却処理施設に設置されている発電施設を利用した発電事業を展開しています。また、民間事業者との連携のもと、「バイオマス石炭混焼火力発電」や「洋上風力発電」なども積極的に推進しています。
  • 大阪府泉佐野市様
    大阪府泉佐野市では、近隣エリアにある太陽光発電施設から電力を購入し、公共施設等に供給するための組織として、民間の新電力会社と共同で大阪府内初の自治体PPS(新電力会社)となる「一般財団法人泉佐野電力」を設立。2016年4月以降、一般の家庭や企業への電力小売販売もスタートしています。
  • 岡山県真庭市様
    広大な山林を保有する岡山県真庭市では、大量に発生する木材の残材や、製材所などから出る端材を発電に利用する目的で、小売電気事業者である「真庭バイオエネルギー」に出資しています。2015年には、「真庭バイオマス発電所」の操業もスタートし、木質バイオマスによる電力を家庭などに販売する体制を構築しています。

官民一体となって進められている電力の地産地消に向けた動きですが、今後は、さらに多くの自治体や新電力会社がこの分野に参入することが予想されています。さらにこうした動きには、IoT(モノのインターネット化)などの活用により、街全体の電力の有効利用や効率的な供給を図る「スマートシティ」の促進や、需要状況に応じて、電力料金を変動し、過度な消費を抑制する「デマンドレスポンス」の拡大なども期待されています。

*Enabilityは、日本ユニシス株式会社の登録商標です。
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