オープン勘定系
技報サイト内検索
2008年5月発行 Vol.28 No.1 通巻96号オープン勘定系
技報96号は「オープン勘定系」特集です。世界で初めてとなるWindowsベースのオープン系フルバンキングシステム「BankVision」は、2007年5月、百五銀行で稼働を開始しました。これはS-BITSコンソーシアムのグランドデザインを最初に具現化するためのプロジェクトでもありました。本特集号では、「BankVision」開発までの経緯、プロジェクト管理・基盤技術・ソリューション開発などの新技術を採用した大規模システム開発プロジェクトへの取り組み方,24時間365日の連続稼働をWindowsベースで実現した最新技術などについて、実際に開発に携わった技術者が執筆した論文を掲載しています。日本ユニシスグループの技術力の一端を深部まで公開しているとともに、大規模開発の成功事例として、開発者の熱気も伝わってくる内容となっています。
オープン勘定系システム稼働までの軌跡
2007年5月,株式会社百五銀行にてWindowsベースのオープン勘定系システムが稼働した。2003年12月に,このシステムの開発開始を発表した時の一般的な反応は,「(無謀な)チャレンジ」というものであった。それまで,オープン化は難しいと言われていた銀行勘定系システムを,Windows上に構築すると発表したのであるから,この反応は無理もないものである。しかしながらこの発表は,当然の事ながら,オープン化に関し多くの段階を経て一歩ずつ着実に実績を積み重ねた上でのものであった。 銀行勘定系システムのオープン化に対しては,オープン系のH/W,S/Wの進展に合わせ,段階的に行うという方針が,非常に早い段階から打ち出されていた。その方針に則り,開発環境/ネットワークのオープン化から開始し,勘定系の対外接続部分のオープン化,勘定系システムの実機検証,それらの経験/成果をベースにしたオープン系ミドルウェアの開発,そのミドルウェアで稼働するソリューションの開発と,段階的に実績を積み重ね,最終的に勘定系システム全体のオープン化に着手した。 本稿は,非常にミッションクリティカル性の高い,超大規模システムである銀行勘定系システムを,オープン環境で稼働させる際に,どのようなプロセスを経て実現させたのか,その軌跡を辿ったものである。
大規模システム開発におけるプロジェクト・マネジメントの実際
プロジェクト・マネジメントについては,IT業界のみならず,PMI/PMBOKをはじめとした教育や資格取得の推進,更には参考文献・書籍も多数発表されており,それらを知識として修得する事は比較的容易である。しかしながら,その知識をもってしても実践する事は容易ではないという現実や実態もある。本稿は,特に難易度が高い大規模開発のプロジェクト・マネジメントについて,実際に日本ユニシスグループと(株)百五銀行が共同で実践した次世代オープン基幹系システムの開発プロジェクトである「S-BITSプロジェクト」を通し,プロジェクト・マネジメントとして特に工夫したポイントである「透明性あるプロジェクト運営」について,重要成功要因などを中心に述べている。 また本稿は,大規模開発におけるプロジェクト・マネジメントの実際を理解し,その上に改良・工夫を加えて,より失敗のないプロジェクト・マネジメントを実践する一助にしていただく事を目的としている。
Windows Serverで構築するミッションクリティカルシステムの勘所
S-BITSプロジェクトで開発されたフルバンキングシステムには,日本ユニシスが蓄積してきたオープンシステム構築のノウハウが結集されている。S-BITSプロジェクトでは,Windows OSを中心としたオープン基盤上で,銀行業務の中心である勘定系システム「BankVision」を安定稼働させるために,様々な視点から検討および検証を行った。特に,プロジェクト開発時には実績が少なかったWindows 64bitOSの採用やSQL Server 2005のデータベースミラーリング機能を積極的に採用することにより,性能要件,拡張性要件,高可用性要件を実現している。また,マイクロソフト社と協力し,定常的に記録しておく必要のあるデータを徹底的に洗い出し,一般的にWindowsシステムの弱点と言われている障害追究能力を向上させた。
開発支援ツールMIDMOST/DE for COBOLの採用
BankVisionの設計・製造・テストを支援するために,MIDMOST/DE for COBOL(以下,MIDMOST/DE)を採用した。MIDMOST/DEは「MIDMOSTを基盤とするCOBOLによるAP開発のための開発支援ツール」という位置付けのクライアントサーバ形式のツールであり,設計工程から保守工程までをカバーする各種ツール群で構成されている。BankVisionの基本AP構造を堅持するための各種機能を有し,大規模開発でのプログラム品質向上に寄与している。 またBankVision自体がWindows基盤上で稼働するという特徴を生かし,単体テスト工程,および統合テスト工程において,プログラム開発用クライアントPC上でのテスト実行を可能とすることで,特に大規模開発において課題となる,限られたテスト環境資源の有効利用を実現した。
BankVisionにおける24時間連続稼働の技術基盤
銀行勘定系のオンラインサービスを休日に提供することは一般化しており,また,24時間提供する金融機関が増加してきている状勢から,BankVisionにおいても24時間365日のサービス提供を実現することは必須要件であった。このためにオンライン処理とバッチ処理を行う環境を分け,平日用・休日用のサーバを保有していることを前提とし,様々な切り替えの機能を実装することでオンライン処理の24時間365日のサービス提供を可能にしている。 本稿ではオンライン処理の24時間および365日連続稼働を実現するためにBankVisionで行っている実装を紹介する。実装は日付が切り替わるタイミングに実施する処理を中心としており,この処理で使用している機能や運用方法について,日本ユニシスが他のシステム運用にて蓄積してきた技術の活用を,実装に至るまでの検討過程も含めて紹介する。
オープン勘定系システムのアウトソーシング・サービスの設計と実装 ──ITILを利用して網羅性の高い運用サービスを構築する
S-BITS共同OSは,加盟行の金融システムの開発業務およびシステム導入のみならず,システム運用を24時間365日行うアウトソーシング・サービスである。モデル行との共同開発プロジェクトにおいては,本番稼働と同時にS-BITSとしての新しい運用サービスの提供を開始することが必要であった。 このため,加盟行の銀行サービスを旧システム内容から評価分析し,銀行サービスにあわせたシステムの運用の提供,運用作業のスケジュール化,さらに,運用実務者のスキルに依存しない運用サービスを実現するために,運用業務の一覧となる「運用WBS」を構築した。 また,運用サービスの立ち上げにあたっては,業界標準となっているITILのサービスメニューを参考にして運用設計し,構築およびテストを行い,運用サービスの網羅性を検証しながら実装したことで,本番業務の実施に必要であった各種手続きのほとんどを事前準備することができ,本番開始以降,大きな混乱もなく順調に業務を遂行できている。 加えて,サービスの健全性を確保するため,開発部門と運用部門の独立性を確保し,作業結果の記録管理やセキュリティ・チェックを実装した。
勘定系共同利用化に適したアプリケーション構造と適用手法
近年は勘定系システムの更改にあたり,他銀行とのシステム共同利用によるコスト削減を目指す動きが顕著となってきており,適用に際しプログラム改造が発生しにくい構造が勘定系業務アプリケーションに求められてきている。 そのような構造の実現に向けて重要なことは,分析・計画段階で共通的な機能と固有機能の実装を切り分け,固有部分については極力テーブルウェア化を図っておくことがあげられる。共通機能を切り分ける主なキーワードは,取扱商品,銀行事務,営業形態,店舗形態などであり,BankVisionではこれらの機能の固有性を可能な範囲でテーブルウェア化している。 また,適用手法という切り口から見ると,業務機能の相違部分をどれだけ確実に把握し顧客と共有できるかが,事務運用をパッケージに合わせられるかどうかの分岐点となることが多い。これら相違部分の洗い出し作業をS-BITSでは適用工程における定型的手法として定義している。 勘定系オンラインシステム適用工数削減に向けて,上記二つの側面からのアプローチは必須であり,そのアプリケーション構造,適用手法は,実適用作業の中でさらに洗練していく必要がある。
オープン勘定系システムにおけるバッチ処理を支える仕組み
BankVisionでは,バッチ処理環境にバッチ専用データベースを保有しており,大多数のバッチ処理はこのデータベースから必要な情報を抽出して処理を行っている。このバッチ専用データベースには,2時間程度で作成を終了させるという性能的要件や,24時間稼働を前提としているオンラインデータベースの日付繰越の時点で未確定の勘定を反映して作成しなければならないという業務要件があった。 バッチ専用データベースを基に処理を行う部分,特に帳票作成処理部分においては,オープンプロダクトを採用し,開発の効率化,保守性向上によるコスト削減を目指すとともに,時流となっているペーパレス化を実現する一方,旧システムで実現されていながらオープンプロダクトで対応しきれていない部分については,新たに仕組みを作ることによって対応した。
S-BITS営業店インタフェースサーバにおける入出力編集の概要
S-BITSでは,オープン基盤上の勘定系システムを共同利用することを想定し,加盟行毎に異なる営業店端末システムを接続する方針を採用した。異なる端末ベンダ接続を勘定系システムが行う開発負荷の軽減のため,基幹系接続チャネルの論理的なコミュニケーションハブとして営業店インタフェース(I/F)サーバを構築した。加盟行毎に異なる端末システムや端末ベンダの差異を営業店I/Fサーバが吸収する仕組みを持つことで,S-BITSの端末フリーの概念を実現している。本稿では,S-BITS(BankVision)勘定系システムに加盟行営業店端末システムを接続するチャネルとしての営業店I/Fサーバの役割と主な機能を紹介するとともに,加盟行毎の差異を吸収する入出力編集機能を中心に述べる。