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「スマートシティ」への事業参入で広がる新たなビジネスチャンスとは?: Enabilityコラム

SMART CITY

2018年2月1日

「VPP事業化」に向けた政府の動き

次世代のエネルギー源として大きな期待を集めるVPP(バーチャルパワープラント)や、エネルギー最適化を実現する環境配慮型都市「スマートシティ」の実現に向けた動きが加速していますが、その背景には、国の「エネルギー革新戦略」があります。ここでは、いくつかのポイントからエネルギー革新戦略を踏まえて経済産業省によって策定された「長期エネルギー需給見通し(エネルギーミックス)」 の詳細について見ていきます。

  • 徹底した省エネ
    エネルギーミックス実現のための前提のひとつが、省エネ対策の徹底です。エネルギー消費の激しい製造業などでは長年実施されている省エネ対策を、流通・サービス業などの他分野に拡大することに加え、それにともなう新たな省エネ基準の設定なども進んでいます。この中では、エコドライブや自動運転技術などに象徴される「次世代自動車」や、住宅のゼロ・エネルギー化を実現する「ZEH(ネット・セロ・エネルギー・ハウス)」、そしてLEDなど、従来よりもエネルギー効率の高い自動車、住宅、機器などの普及による省エネ効果の拡大も目標として掲げられています。また、新たな省エネ対策の可能性として、VPPの実現においても重要な意味をもつ「エネルギーマネジメント技術の開発・普及促進」も重要課題となっています。
  • 再生可能エネルギーの拡大
    既存のエネルギー需給の構造を変えるエネルギーミックスでは、再生可能エネルギーの拡大も必須です。そこで、国では再生可能エネルギーによる発電施設などでの長期・安定的な発電を促す仕組みづくりや、その普及のための地域間連結線などの運用ルールの見直し、さらにはその健全な導入拡大のための規制改革など、様々な取り組みが進められています。再生可能エネルギー事業の自立・安定化に向けた動きとしては、その基盤である発電システムや蓄電池システムの低コスト化、現状では自然条件によって発電量が大きく変動する太陽光発電や風力発電の出力の予測・制御技術、運用技術の向上など、新技術の研究開発促進も重点目標のひとつに挙げられています。
  • 新たなエネルギーシステムの構築
    新しいエネルギーシステムの構築も、エネルギーミックス達成のための重要課題です。住宅用太陽光発電(PV)の普及など、需要家側でもエネルギー創出の仕組みの導入が進んでいることを受けて、IoTを活用した需給管理技術のさらなる高度化や、需要家の節電により生じたネガワットの取引を行う「ネガワット取引市場」の創設に向けたルール策定なども進んでいます。また、こうした様々な取り組みを統合したVPPに関しても、「2020年までに50メガワットを構築する」という具体的な目標のもと、日本ユニシスも参画する「VPP構築実証事業」をはじめ、技術的な実証実験が積極的に進められています。

スマートシティ事例/次世代住宅地「BONJONO」:北九州市様

急速に進むエネルギー革新戦略は、新たなエネルギー需給構造を基盤とする未来型都市である「スマートシティ構想」にもつながっています。ここでは、スマートシティ構築の実証事業が進んでいる北九州市の事例についてご紹介します。

  • “ゼロ・カーボン”の実現を目指す次世代住宅地
    北九州市小倉北区の城野地区で行われているのが、「城野ゼロ・カーボン先進街区(BONJONO/ボン・ジョーノ)形成事業」です。周辺に店舗や施設を備える利便性の高い住宅地を舞台としたこのプロジェクト最大の特長は、「ゼロ・カーボン」を目指した先進的な街づくり。新規に整備される住宅街区全体の整備条件として、「新規の戸建住宅と集合住宅を合わせ、CO2削減率100%以上達成(戸建住宅100%以上、集合住宅60%以上)」という数値目標が掲げられているなど、二酸化炭素排出の大幅低減を目指した街づくりが進んでいます。その実現のための具体的な方法とされているのが、太陽光発電や家庭用燃料電池などによる「創エネ」や、高効率給湯器EMSやBEMSなどのエネルギーマネジメントシステムによる「省エネ」を軸とする新しいエネルギーシステムです。新たに建設される戸建住宅、集合住宅に設置されたHEMSで、近隣の八幡東区東田にあるエネルギー管理センター「地域節電所(CEMS)」と電力消費状況に関するデータを連携し、連携されたデータに基づいて地域全体のエネルギーマネジメントを実施しています。
  • エネルギーマネジメントシステムの開発を担当
    BONJONOのエネルギーマネジメントシステムでは、「CEMS」との連携をはじめ、HEM標準仕様への準拠、常時接続された通信環境、景観の保全など、様々な整備条件が設定されました。日本ユニシスでは、BEMSやHEMSなどを用いたエネルギーマネジメントソリューションにおける実績とノウハウを活かし、この新規エネルギーマネジメントシステムの開発に参画。各家庭における電力使用状況(データ)を見える化する仕組みと、HEMS機器で収集した各家庭の電力使用状況をCEMSへ送信する仕組みの開発を担当しました。こうした開発を経て、2016年春、「まちびらき」式典が開催され、「BONJONO 3街区」で最初の入居がスタートしています。

海外のスマートシティ事例

スマートシティに関する国内の取り組みとして北九州市のケースについて触れましたが、次に日本よりも大幅に進展しているといわれる、海外の事例についてご紹介します。

  • アメリカの事例
    世界的なIT企業がずらりと名を連ねる「IoTの最先進国」であるアメリカでは、その土壌を活かしたスマートシティ建設も積極的に行われています。もともとアメリカでは、居住者のライフスタイルに応じ、室内を適温に保ち、余分なエネルギー消費を回避する、いわゆる「スマートホーム」に通じる発想が古くからありました。そうした歴史の延長として現在進んでいるのが、ホワイトハウス主導で実施されている「スマートアメリカ チャレンジ」です。基本的にはIoTにより環境、輸送、緊急サービス、ヘルスケア、セキュリティ製造業など、あらゆる分野の効率化を図るプロジェクトですが、スマートホームの普及や省エネ事業の促進など、省エネに関する施策も積極的に進められています。また、ハワイでは、日本のNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の協力のもと、風力や太陽光などの再生可能エネルギーの導入も進められています。
  • イギリスの事例
    「2025年までに90年比でCO2排出量を60%削減する」という目標を掲げるロンドンでは、「創エネ」の風力発電や分散型発電への移行や、デマンドレスポンスなどによる省エネ対策などを柱とする、スマートシティ構築の実証実験が行われています。また、この結果に基づき、効率的に電力を分配するスマート電力網の構築や、エネルギーインフラの構築なども進んでいます。
  • エストニアの事例
    国土面積が九州と同程度という小国ながら、電子投票の導入や、国民一人ひとりへのICチップ配布など、行政などへのIT活用がめざましく進んでいるIT先進国エストニア。国内に居住していなくても全ての電子サービスにアクセスできるようになる「イー・レジデンシー(電子居住)」を世界ではじめて実施した国としても話題を集めました。そんなエストニアでは、日本の三菱商事のサポートのもと、電気自動車の導入や充電器の設置など、スマートシティ化に向けた取り組みが行われています。エネルギー分野においても、ITによる管理が浸透している同国は、スマートシティ、さらにはスマートカントリー実現に最も近い国といわれています。

電力やガスの小売事業の自由化をはじめ、エネルギー一体改革が進んだことで、日本国内でも、海外と同様に大きな注目を集めるようになったスマートシティ事業。新たなエネルギーマネジメントシステムの構築に向けた動きも加速する中、従来とは異なる創エネ、省エネの取り組みも進んでいます。これは、電力やガスの小売事業者にとっても、新たなビジネスチャンスが広がることを意味しています。

*Enabilityは、日本ユニシス株式会社の登録商標です。
*その他記載の会社名および商品名は、各社の商標または登録商標です。